「キャッチャーが指を出さないで配球しているけど、あれ何?」――MLB中継やWBCで見かけるこの“違和感”の正体が、 電子的なサイン伝達システム「PitchCom(ピッチコム)」です。
投手と捕手、内野陣がボタン一つで暗号化された音声指示を共有できるこの仕組みは、 近年の国際大会でも重要なキーワードになっています。ここでは、WBCをより深く楽しむために、 ピッチコムの仕組みと狙い、実際の使用例、観戦ポイントをまとめます。
ピッチコムの基本:一言で言うと「ワイヤレスの電子サイン」
- 正式名称:PitchCom(ピッチコム)
- 導入:MLBで2022年から本格導入(任意使用)
- 目的:サイン盗み対策と試合のスピードアップ
従来のように捕手が指サインを出す代わりに、捕手が手首や太ももに装着したキーパッドのボタンを押すと、 投手や野手の帽子の中の受信機から音声が流れます(例:「ファストボール・インロー」など)。
通信は暗号化され、複数ポジションが同時に同じ指示を共有できるため、 「走者二塁からサインを盗まれる」という古典的なリスクを大きく減らせます。
どういう仕組みで動いている?
ピッチコムは大きく分けて以下の構成です。
- 送信機(キーパッド):捕手(あるいは投手)が装着。ボタンの組み合わせで球種やコース、牽制サインなどを入力。
- 受信機(スピーカー付き端末):投手・捕手・内野手などが帽子や防具の内側に装着。小さなスピーカーから音声で指示が流れる。
- 暗号化通信:第三者には内容が分からない無線通信を使用。
これにより、捕手はサイン隠しのモーションに時間を割かずに済み、 投手も素早く確認して投球動作に入ることができます。MLBではこの仕組みが、 試合時間短縮にも一定の効果があったと評価されています。
ピッチコム導入の背景:サイン盗みと「試合時間短縮」
導入の最大の目的はサイン盗み対策です。
二塁走者やベンチがサインを読み取り打者に伝える行為は、かねてからトラブルや論争の種でした。 電子化することで、そもそも「見えるサイン」をなくしてしまう発想です。
もう一つの狙いがテンポアップ。
サイン交換や首振りが減ることで配球決定が速くなり、結果としてゲームの進行もスムーズになります。
ピッチコムの主な使用例:MLBとWBCでどう使われているか
ここからは、実際の使われ方を具体例で押さえておきましょう(観戦記事でそのまま引用しやすいパートです)。
- MLB早期導入例(ヤンキースなど)
2022年シーズン開幕直後から、ニューヨーク・ヤンキースなど複数球団が積極的にピッチコムを使用。 捕手ジョゼ・トレビーノやエース級投手陣が「テンポ向上」に手応えを示し、 以降ほぼ全30球団が何らかの形で採用する流れとなりました。 - 投手主導の配球(2023年以降)
MLBは2023年から、投手自身が送信機を装着して球種を指定することも正式に認可。 ベテランや頭脳派投手を中心に「自分でコールして自分で投げる」スタイルが広がり、 キャッチャーとの役割分担や駆け引きも多様化しています。 - 球団ぐるみの導入
ロッキーズなどでは、公式映像でピッチコム運用の裏側が公開されるなど、 チーム全体で「標準装備」として扱うケースも登場。 MLBは2024年にピッチコムとの契約延長を発表し、少なくとも2026年まで公式システムとして運用予定です。 - WBCでの利用
ピッチコム社によれば、ピッチコムはワールド・ベースボール・クラシック公式のオンフィールド通信システムとして位置づけられており、 2023年大会でも、MLB所属選手の多い国・地域を中心に実戦で使用されました。
特に、ふだんからMLBで使い慣れているバッテリーは、そのまま代表チームでも採用し、 国際試合特有のサイン盗みリスクを抑えながらテンポ良く配球できるメリットを活かしています。 - 一方で「使わない」選択も
一部の投手・捕手は「従来のサインの方が安心」「機器トラブルが怖い」として、 走者なしの場面では旧来の指サインを使い、走者二塁時だけピッチコムに切り替えるなど ハイブリッド運用を行っています。
観戦のポイント:「ピッチコム時代の配球」をこう見る
- キャッチャーの所作:指サインがほとんど出ない代わりに、膝や手首のデバイスに一瞬視線を落とす仕草が増える。
- 投手がボタンを押していないか:グラブの中やベルト付近の小さな送信機を触る動きがあれば、投手主導の配球の可能性。
- 守備陣の一歩目:受信機で球種・コースを共有することで、内野手のポジショニングがよりアグレッシブになる。
- トラブル対応:試合が一時止まり、旧来サインに戻るシーンも。「機械依存リスク」も含めて注目ポイント。
ピッチコムは野球を“つまらなく”する?それとも“進化”させる?
「駆け引きが減る」と懸念する声もありますが、 「不正の余地が減り、純粋な勝負に集中できる」「テンポが良く観やすい」との評価も多く、 MLBでは事実上スタンダードな技術になりつつあります。 WBCのような短期決戦でも、戦略と安全性の両面から利用価値は高いと言えるでしょう。
まとめ:WBCを楽しむためのチェックポイント
- ピッチコムは「電子サインで配球・戦術を共有するシステム」。
- サイン盗み対策とテンポアップを目的に、MLBでは標準的なツールになっている。
- WBCでも使用が認められ、特にMLB勢中心の代表チームが積極的に活用。
- 観戦時は「キャッチャーのデバイス」「投手の自営コール」「守備との連動」「トラブル時の切り替え」に注目すると、戦術がより立体的に見える。
ピッチコムの存在を理解しておけば、「なぜこのテンポ?」「なぜこの守備位置?」といった疑問の背景がクリアになり、 WBCやMLBの観戦が一段深く楽しめます。



コメント