投稿日:2025年◯月◯日
「あの助っ人左腕が殺人犯に」──ダン・セラフィニという名前の再登場
千葉ロッテファンにとって「ダン・セラフィニ」という名前は、本来なら 2004〜05年の再建期を支えた助っ人左腕として記憶されているはずだった。 先発も中継ぎもこなし、NPB通算18勝17敗、防御率4点台前半。 いわゆる“超大物”ではないにせよ、ローテーションの谷間を埋める仕事人タイプとして、 マリンで見慣れた背番号のひとつだった。
だが2020年代に入り、その名はまったく別の文脈で世界中のニュースに躍ることになる。
義父殺害・義母銃撃事件──有罪までの経緯
事件が起きたのは2021年6月、舞台は米カリフォルニア州レイクタホ近郊。 妻の両親である高齢夫婦が自宅で銃撃され、義父は死亡、義母も重傷を負った。 監視カメラ映像などから、「待ち伏せして侵入した人物」による計画的犯行が疑われ、 その先に浮かび上がったのが、元メジャーリーガーでありNPB経験者でもある ダン・セラフィニだった。
長期の捜査と審理を経て、2025年7月、カリフォルニア州プレイサー郡の陪審は セラフィニに対し、義父殺害についての第一級殺人、有罪生存者である義母への銃撃についての 殺人未遂、さらに住居侵入(第一級強盗的住居侵入)など複数の罪状で有罪評決を下した。 裁判では、金銭・資産を巡る対立を背景にした計画的犯行と認定され、 特別事情(待ち伏せ、銃器使用など)も認められている。 判決言い渡しには終身刑を含む極めて重い量刑が想定されており、 セラフィニは事実上「プロ野球OBである前に、重大犯罪の被告人」として名前を刻まれることになった。
成績だけ見れば「どこにでもいる左腕」だった
セラフィニは1992年ドラフト1巡目(全体26位)でミネソタ・ツインズに指名された左腕で、 MLBでは通算15勝16敗、防御率6.04。 日本ではロッテとオリックスでプレーし、NPB通算18勝17敗、防御率4.13、217奪三振を記録している。 期待された“超エース”にはなれなかったが、ロッテ在籍時にも先発やロングリリーフで 役割をこなした「そこそこやれる投手」だった。
だからこそ、後年のニュースを見たファンにとっては、 「あの穏やかな顔の助っ人が?」という違和感とショックが大きい。 華々しいスター選手が転落したわけではない。 どの球団にも一人はいそうな左腕が、引退後の生活と対人関係の行き詰まりの果てに、 取り返しのつかない“一線”を越えてしまった、という現実だ。
もう一つの「元ロッテ投手の殺人事件」との対比
「元ロッテ投手が人を殺した」というフレーズで、すでに日本のファンには 小川博の事件が強烈な記憶として残っている。 現役時代は最多奪三振まで獲得した本格派右腕が、引退後の借金と生活苦から強盗殺人に走り、 無期懲役判決を受けたあの事件だ。
詳細はここでは繰り返さないが(既に多く語られているとおり)、 セラフィニのケースと並べると、国も時代も違うのに、 「プロとしての立場や収入を失った後に、金銭トラブルと人間関係の破綻が噴き出す」 という構図が驚くほど似通っていることに気づかされる。
「元プロ」という看板のあとに残るもの
もちろん、どれほど追い込まれていようと、殺人に理由はつけられない。 セラフィニも小川も、「元ロッテ」だから特別扱いされるべきではなく、 一人の加害者として厳正に裁かれる存在だ。
ただ、彼らの名前がニュースに並ぶたびに浮かび上がるのは、 プロスポーツ界が抱える「セカンドキャリア」と「金銭管理」の問題でもある。 一度でも“プロ野球選手”となり、脚光と収入を手にした人間が、 引退後の現実とのギャップに耐えきれず崩れていくケースは、決して彼らだけではない。
元ロッテ左腕の有罪判決は、一人の元選手の転落劇という以上に、 「ユニホームを脱いだあと、人はどう生きるのか」 「球団とリーグはどこまで寄り添えるのか」 という問いを、改めて突きつけている。 マリンで彼を見たことがあるファンほど、その重さを痛みとして感じているはずだ。




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