サッカー、バスケ、陸上──アフリカと聞いて真っ先に浮かぶスポーツは、ほぼこの3つでしょう。
では「野球」はどうか?
実は、南アフリカやウガンダを中心に、静かに・じわじわと広がりつつあります。ただし、そのスピードは「爆発的」というより「しぶとく芽を守っている段階」と言った方が近い。
本記事では、 ①アフリカ野球の現状、 ②MLBや各種アカデミーによる選手発掘の仕組み、 ③アフリカ出身の名選手・有望株を整理したうえで、
「アフリカで野球は本当に普及しうるのか?」を考えていきます。
1.アフリカ野球の現在地:ホットスポットはどこか
南アフリカ:最も「野球国」に近い存在
南アフリカは、アフリカで最も古くから野球組織が整っている国の一つで、 1935年設立のSouth African Baseball Union(SABU)がWBSCに加盟し、国内リーグや代表チームを運営しています。
野球人口や環境は限られつつも、WBC予選出場や40〜45試合規模のリーグ戦など、 大陸内では頭一つ抜けた存在です。
ウガンダ:リトルリーグ発「ポテンシャル国家」
ウガンダは、リトルリーグ世界への挑戦で一躍注目された国。
2000年代以降の民間プロジェクトを起点に、学校単位での普及や専用球場建設が進み、 2012年にはアフリカ勢として初めてリトルリーグ・ワールドシリーズ出場を果たしました。
現在はUganda Baseball and Softball Association(UBASA)が中心となり、 学校・地域を回るグラスルーツプログラムで競技層を増やしています。
その他の国々:点在する「芽」
ガーナ、ナイジェリア、ケニア、ジンバブエ、カメルーンなどにも、 小規模ながら連盟・クラブチーム・スクールが存在します。
WBSCアフリカ加盟国は20数か国とされ、各国で 「日本人・米国人・日本企業・NGO・日系/米系学校」がきっかけになってチームが生まれているケースが多い。
また、Baseball5(ベースボール5)のような道具が少なくて済む新競技も導入されはじめ、 南アフリカはBaseball5大陸王者として普及の起点になっています。
2.アフリカにおける「選手発掘」の仕組み
MLBアフリカ・エリートキャンプ/アカデミー
2011年以降、MLB Internationalは南アフリカ・ケープタウンなどで 「MLB African Elite Camp」(アフリカ・エリートキャンプ/旧アフリカ・アカデミー)を開催。
- 南アフリカ、ウガンダ、ガーナ、ナイジェリアなどから有望選手を招集
- MLBコーチ陣による指導+スカウトのチェック
- 参加者の一部は、実際にMLB傘下球団と契約
人数自体はまだ「数名/年」レベルですが、 「アフリカにもMLB直結ルートがある」ことを示した意味は大きい。
民間・球団系アカデミーの動き
近年はMLBや個別球団、NPOが絡んだアカデミーも増加傾向です。
- ウガンダ:米国人支援者やMLB関係者が立ち上げた施設から、有望選手がMLB球団と契約。
- ケニア・ガーナ:現地指導者+海外ボランティアによるクラブチーム・育成プログラム。
- 南アフリカ:MLB支援でナショナルトレーニングセンターや球場が整備され、国内リーグの基盤強化に活用。
ただし多くは「人と情熱に支えられた点のプロジェクト」であり、 サッカーのアカデミー網のような「面」でのシステムにはまだ遠いのが実情です。
3.アフリカ出身の主な選手たち
ギフト・ンゴエペ(南アフリカ)
2017年、ピッツバーグ・パイレーツでMLBデビューしたギフト・ンゴエペは、 「アフリカ大陸出身初のメジャーリーガー」として歴史に名を刻みました。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 南アフリカのクラブハウスで育ち、MLBアカデミーを経てプロ入り。
- MLB通算成績は控えめながら、「アフリカからメジャーへ」の道を現実のものにした象徴的存在。
テイラー(テイラー)・スコット(南アフリカ)
ヨハネスブルグ生まれの右腕テイラー・スコットは、 2019年にマリナーズでデビューし、MLBでプレーした初の南ア出身投手となりました。
- 16歳で米国へ渡り、高校〜ドラフト経由でプロ入り。
- 複数球団を渡り歩きながらMLBとNPBを経験し、「アフリカ出身投手でもトップレベルに届く」ことを示した存在。
次の波:ウガンダや南スーダン出身のプロ契約組
2020年代に入り、 ウガンダや南スーダン出身の投手や野手が、ドジャース、パイレーツなどとマイナー契約を結び始めています。
彼らの多くは、まさに前述のアカデミーやエリートキャンプ出身であり、 「アフリカ発→MLB組織入り」はもはや単発の奇跡ではなくなりつつあります。
まだ「MLBでスターになったアフリカ人」は希少ですが、 この層から1人大当たりが出た瞬間、普及の風向きが変わる可能性は十分あります。
4.それでも普及が難しい理由
① サッカー&クリケットの圧倒的存在感
多くの国で、スポーツ=サッカー(+一部地域でクリケット・ラグビー)。
限られた予算・グラウンド・メディア露出が、既存人気競技に集中しており、 野球は「知られてすらいない」ところからスタートするケースがほとんどです。
② インフラとコストの問題
野球にはグラウンド、マウンド、グラブ、バット、ボールなど多くの設備が必要。
多くの少年がサンダルでボールを蹴るところから入れるサッカーと比べ、 初期コストが高く、貧困地域ほど参入障壁が高いのが現実です。
③ 「出口」が見えにくい
NBAやサッカー欧州リーグのような「アフリカから成功したスター」の物語が、まだ野球には少ない。
「頑張れば自分もあそこへ」というロールモデル不足が、競技選択の段階で不利に働いています。
④ 組織化の難しさ
多くの国では、野球普及を担うのが個人ボランティアや小さなNPOで、 国としての強力なバックアップは限定的。
大会・リーグ運営やコーチ育成が個人の情熱頼みになり、継続性が課題となっています。
5.それでも「普及の余地」は大きい理由
① 圧倒的な若年人口
アフリカは世界で最も若い大陸と言われ、10代以下の人口比率が非常に高い。
「遊び場さえ作れれば、プレーヤー候補はいくらでもいる」という意味で、 野球にとっては巨大なポテンシャル市場です。
② マイナー契約組・MLB経験者の存在
ギフト・ンゴエペ、テイラー・スコットに続き、 ウガンダなどからもMLB組織入りする選手が現れ始めたことで、 「実はチャンスがある競技」としての説得力が増している。
③ グローバル競技としての魅力
WBCや五輪競技復帰の動きもあり、 「野球=北米と東アジアだけのもの」というイメージは薄れつつあります。
各国が国際大会出場を目標に据えやすくなれば、それが普及のアクセルにもなります。
④ Baseball5や学校体育からの導入
少ないスペースと道具で始められるBaseball5は、 「まずは打つ・走る・守るの楽しさを体験させる入り口」として優秀。
ここから本格野球にステップアップさせるモデルが定着すれば、 インフラ問題を部分的に緩和できます。
6.結論:アフリカ野球は「時間をかけて咲くタイプの巨大ポテンシャル」
冷静に言えば、「すぐにNPBやMLB級のスターが次々生まれる」段階ではまったくないし、
サッカーのようなマススポーツへ一気に駆け上がるのも現実的ではありません。
しかし、
- 南アフリカやウガンダを中心にしたホットスポットの存在
- MLBエリートキャンプや民間アカデミーによる国際ルートの整備
- 実際にMLBへ到達したアフリカ出身選手の出現
- 爆発的な若年人口という長期的な資源
これらを合わせて考えると、 「細く長く、しかし確実に芽が増えている」と言っていい状況です。
今後もし、
- アフリカ出身のMLBオールスター級選手
- WBCや五輪で旋風を起こす代表チーム
が生まれれば、それはそのまま普及の起爆剤になり得ます。
アフリカにおける野球は、まだ「ニッチな挑戦者」にすぎません。
それでも、空き地や赤土のグラウンドでバットを振っている子どもたちの中から、 次のギフト・ンゴエペや、その先のスーパースターが現れる可能性は、確実に前より高くなっている。
普及の成否を一言で決めつけるよりも、 「今、どんな仕組みと物語が生まれつつあるのか」を追うスポーツとして見ていくと、アフリカ野球はかなり面白いフェーズに入っています。



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