漫画『ONE OUTS』の東亜式「ワンナウツ契約」を、もし現代プロ野球・MLB投手に当てはめたらどうなるのか。
「アウトごとプラス、失点ごとマイナス」のあの狂気の契約で、実際にシーズン黒字を叩き出せる現役トップ投手はいるのか?
主要投手の実成績をベースに、ネタ半分・本気半分で試算してみる。
1.前提整理:「ワンナウツ契約」はどんな条件か?
作中の基本形(東亜が最初に結んだ契約)はこんな内容とされる
- 1アウト奪うごとに:+500万円
- 1失点するごとに:−5000万円(原作基準/全ての失点が対象)
- 固定年俸ほぼなしの「完全出来高ギャンブル」
この記事ではわかりやすくこの比率(+500万/−5000万)を採用し、 「アウト数×500万 − 失点数×5000万」だけで損益を見ていく。 (作中細かい条項や試合重要度ボーナスなどは一旦無視)
2.どんな投手なら黒字になるのか?ブレークイーブンを計算
1失点あたりアウト10個ぶん吹き飛ぶので、
黒字条件:アウト数 > 10 × 失点数
9回=27アウトなので、1試合3失点(27アウト ÷ 10)まではギリ黒字ライン。
これを防御率に直すと、
ブレークイーブンは およそ「ERA 2.70」
※本来は自責点以外も含むが、ここでは「ざっくりERA≒失点」として計算しているので、
現実に当てはめると「実際はもっとシビア」と思っておいてほしい。
3.NPBの怪物エース勢:余裕で黒字ゾーン
◆ 山本由伸(オリックス 2023)
- 164回、防御率1.21、自責22。
- アウト数:164 × 3 = 492
- 損益:492×500万 − 22×5000万 = +13.6億円
フルでこの契約を適用しても圧倒的大勝ち。
「東亜になれるリアル投手」と言っていいレベル。
◆ 佐々木朗希(ロッテ 2022)
- 129回1/3、防御率2.02、自責29。
- アウト数:129回1/3=388アウト
- 損益:388×500万 − 29×5000万 = +4.9億円
イニングは山本より少ないが、それでもしっかり黒字。
「イニングさえ投げてくれれば完全にワンナウツ向き」の典型。
4.二刀流・大谷翔平はどうなる?
◆ 大谷翔平(2022年 投手成績)
- 166回、防御率2.33、自責43。
- アウト数:498
- 損益:498×500万 − 43×5000万 = +3.4億円
普通の年俸に加えてこれなら余裕で黒字。
ただし作中ルールどおり「失点=即5,000万飛ぶ」世界だと、一回炎上するとごっそり削られるギャンブル仕様。
メジャー級の登板数で黒字を保っている時点で、異常な安定感といえる。
5.MLBエース級は意外とギリギリ
◆ ゲリット・コール(ヤンキース 2023)
- 209回、防御率2.63。
- 自責は約61とすると、アウト数627。
- 損益:627×500万 − 61×5000万 ≒ +0.85億円
サイ・ヤング級の超優良シーズンでようやく、数千万円〜1億弱の黒字。
ちょっと失点が増えた瞬間に即マイナス転落するバランスで、 「ほとんどの一流先発でもリスク高すぎ」というのがよく分かる。
◆ 今永昇太(カブス 2024)
- 173回1/3、防御率2.91(56自責)。
- アウト数:520
- 損益:520×500万 − 56×5000万 = −2.0億円
高レベルの好成績でも、ERAが3点近づくと即アウト。
「普通のスター先発」には全く割に合わない契約、というのがポイント。
6.むしろ相性がいいのは「圧倒的クローザー」
◆ 松井裕樹(楽天 2023)
- 57回1/3、防御率1.57、自責10。
- アウト数:172
- 損益:172×500万 − 10×5000万 = +3.6億円
◆ 栗林良吏(広島 2021)
- 52回1/3、防御率0.86、自責5。
- アウト数:157
- 損益:157×500万 − 5×5000万 = +5.35億円
イニングは少ないが、ほぼ点を取られないクローザーは強烈にプラス。
「1点=即−5000万」という縛りを耐えきれるメンタルとパフォーマンスを持つごく少数の守護神だけが、 ワンナウツ契約を“美味しい契約”に変えられる。
7.誰が「東亜向き」か?ざっくり結論
今回の前提(+500万/−5000万、全登板に適用)で整理すると:
- 継続してERA 2.70未満 × イニングもきっちり投げるエース… 山本由伸クラスのみが大幅黒字。
- 150〜170回で2点台前半の大谷翔平(2022)や一部エースはそこそこ黒字。
- 2.7〜3.2あたりの「普通に一流」先発はほぼ赤字。
- 1点台前半〜0点台のクローザーは登板回数次第でかなり旨味あり。
つまり、リアル野球でワンナウツ契約をプラスにできるのは、
「トップ・オブ・トップのエース」か「ほぼ失点しないクローザー」だけ
という超限定仕様。
炎上一回で数億吹き飛ぶ設計上、球団側には最高の保険、投手側にはほぼギャンブル依存症レベルの自信がないと飲めない契約です。
8.おまけ:現代球界で本気でやりそうなタイプは?
- 山本由伸・佐々木朗希クラス:数字的には余裕で対応可能。ただし代理人が全力で止める契約。
- 全盛期クローザー(松井裕樹、栗林、クラスA守護神):短期なら“勝負してみたい”レベル。
- 「奪三振型だけど被弾癖あり」タイプ:ワンナウツ契約と最悪の相性。一発でマイナス地獄。
要するに、東亜のワンナウツ契約はやっぱり「フィクションだからギリ成立する狂気のレート」で、
リアルに持ち込むとごく一部の怪物だけが辛うじて勝てる「超ハイレート投手版FX」になる、というオチでした。
(※本文の計算は公開成績をもとにした概算であり、全失点・細かい契約条項をフル再現したものではありません)
9.とんでもないマイナスを叩き出すパターン集
ここまで「黒字になりそうな怪物」側を見てきたので、今度は逆に
「ワンナウツ契約だと地獄を見るタイプ」も具体的にイメージしておく。
前提は同じく アウト1個+500万/失点1点−5000万。 数字はあくまでフィクション前提のネタ計算であり、実在選手を貶す意図はないのでご了承を。
ケース①:ローテは守るけど防御率4.50(典型的イニングイーター)
- 成績イメージ:150回、防御率4.50
- アウト数:150回 × 3=450
- 失点(ざっくり):4.50 × 150 ÷ 9=75
- 損益:450×500万 − 75×5000万 =2250万 − 3750万(←単位は「万円」)=−1500万
=日本円換算でマイナス15億円クラス。
現実世界では「試合作ることも多いローテ投手」なのに、ワンナウツ契約だと球団大勝利・本人破産確定レベルの罰ゲームになる。
ケース②:フル回転したのに防御率6点台ローテ
- 成績イメージ:160回、防御率6.00
- アウト数:480
- 失点:6.00 × 160 ÷ 9 ≒ 107
- 損益:480×500万 − 107×5000万 =2400万 − 5350万=−2950万
=約−29.5億円。
「とにかく投げてくれた功労者」タイプが、一瞬でワンナウツ界の負債王にされてしまう。
こういうシーズンは現実のプロにも珍しくないので、この契約がどれだけ投手に一方的に不利かが分かる。
ケース③:不調の守護神・炎上型クローザー
- 成績イメージ:50回、防御率4.50
- アウト数:150
- 失点:4.50 × 50 ÷ 9=25
- 損益:150×500万 − 25×5000万 =750万 − 1250万=−500万
=約−5億円。
セーブ機会で1回炎上(1回5失点など)すると、その試合だけで 「3アウト=+1500万」「5失点=−2億5000万」で−2億3500万飛ぶ計算。
シーズンに何度かやらかすタイプの守護神は、ワンナウツ契約と最悪の相性です。
ケース④:短いイニングで燃える中継ぎ
例えば「回跨ぎ失敗で1アウトも取れず3失点」の日があると、
- アウト0個:+0
- 失点3点:−1億5000万
これだけで一気にマイナス。
中継ぎは「サンプル小さい×1回の炎上ダメージがデカすぎる」ので、 ほとんどがワンナウツ契約=破滅ルートになる。
まとめ:ワンナウツ契約は「9割以上の投手が死ぬ」超偏ったルール
- リーグ平均レベルの先発ですら大赤字。
- 不調の年のエースや守護神は、とんでもないマイナスを叩き出す。
- 唯一勝負になるのは「毎年2点台前半以下」の怪物級エースと、1点台以下で抑える鉄壁クローザーのみ。
こうして「大マイナス例」まで並べると、改めて
東亜の契約は“東亜だからギリ成立する”作中仕様であり、
リアル球界に持ち込んだ瞬間ほとんどの投手が破産する悪魔のレートだと分かるはず。



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