「イニングは食うけど勝ち星少ない先発」「セーブ稼ぐけど投球回は少ない守護神」―― 役割の違う投手を一つの物差しで比べたいときに名前が挙がるのが、 ネット発の指標「小松式ドネーション(KD)」です。
この記事では、 ①小松式ドネーションとは何か、②本当に“総合貢献”を測れているのかを整理しつつ、 ③2025年シーズン(10月5日時点最終)NPB主要投手のKD上位陣をピックアップしていきます。
1.小松式ドネーション(KD)とは?
● 元ネタは「小松聖の寄付企画」
発案者は元オリックス・小松聖投手。 自身の成績に応じて愛護団体へ寄付する「ONEアウトドネーション」で使った シンプルな式が元になっています。
● 計算式
現在一般に使われる小松式ドネーションは以下の通り:
KD = (投球回 × 3)+(勝利 + ホールド + セーブ)× 10
- 投球回 → アウトを重ねた「量」の貢献
- 勝利・H・S → 試合を決める場面への「直接関与」
これを「x1000円」とみなすと、その投手が“寄付すべき金額”にもなる、という遊び要素付き。 公式指標ではなくファンメイドですが、 「先発・中継ぎ・抑えを同じ数式で評価できて、計算が簡単」 という理由でデータサイトやブログでも広く使われています。
2.なぜ「総合的な貢献度っぽく」見えるのか
● この指標がうまいポイント
- 投げた分だけ加点:ロングイニングの先発も、登板過多の中継ぎも評価される。
- 勝ち・H・Sを同列で扱う:抑えやセットアッパーも、きちんとボーナスが入る。
- 役割非依存:同じ式で比較できるので、「誰が一番チームを背負ったか」が直感的に見える。
なんJ用語集などでも目安として、 KD≒530で「規定到達の合格ライン」、600以上で主力級、700以上でリーグトップクラス、800超えは歴史的シーズン といった扱いがされています。
● ただし「欠点」もはっきりしている
一方で、小松式ドネーションにはこんな弱点もあります。
- 失点・防御率を直接見ていない:たくさん投げて最低限勝ちに絡めば伸びてしまう。
- 勝ち星・セーブの運要素込み:味方打線や起用法に左右されやすい。
- 同じKDでも「質」が違う:エース先発と酷使リリーフを同じ土俵に載せるため、解釈が必要。
つまり、 「量+表彰スタッツ寄りのざっくり貢献度」を見る指標であって、 FIPやWARのようなガチ分析ツールではありません。 でも「誰が一番働いた?」を一目で語るには、かなり使いやすい“ネタ兼実用”指標です。
3.2025年版:NPB小松式ドネーション上位ピッチャーたち
ここからは、2025年シーズン(10月5日全日程終了時点)のKDランキング(freefielder.jp集計)をもとに、 KDが高かった主な投手をピックアップしていきます。
◆ 伊藤大海(日本ハム)KD 730
- 2025年全体トップ。
- 長いイニングを投げつつ勝利も積み上げた「量と結果」の両立型。
- KD基準でも「エースとして文句なし」のゾーンに到達。
◆ 大勢(巨人)KD 729
- セーブ&登板数を重ね、先発級のKDに迫る守護神。
- クローザーでもこれだけ稼げるのが、小松式の面白さ。
◆ 及川雅貴(阪神)KD 716
- リリーフ中心で700台という異常値。
- 登板数+H(&S)で「投手陣の心臓」ぶりが数字に直撃。
◆ ライデル・マルティネス(巨人)KD 690
- 鉄壁クローザー枠。短いイニングでもセーブを積めばここまで伸びる。
- 「試合を締め続けた守護神」を高く評価する小松式と好相性。
◆ 松山晋也(中日)KD 668/村上頌樹(阪神)KD 666/有原航平(ソフトバンク)KD 665
- 先発・リリーフ問わず、「一年通してローテ/ブルペンの柱」を務めた面々が600台に集結。
- このゾーンは「明確な主力クラス」と見てよいライン。
◆ 杉山一樹・モイネロ(ソフトバンク)、東克樹(DeNA)らKD 620前後
- 東:イニングと先発実績で安定して加点。
- 杉山・モイネロ:多投+H/Sでリリーフの総合貢献が反映。
この顔ぶれを見ると、 「KD上位=その年よく名前を聞いた投手たち」がかなりの割合を占めており、 少なくとも「主力投手の働きぶりをざっくり可視化する」指標としてはかなり感覚に合っているのが分かります。
4.どんなタイプが「小松式ドネーション向き」か
◎ 高評価になりやすいタイプ
- ローテを守り続けたエース・イニングイーター
防御率がそこそこでも、200イニング近く投げて2桁勝てば自然と600台に乗る。 - 鉄人セットアッパー
ホールドを量産し、60〜70試合投げるタイプは得点圏での貢献がKDに直撃。 - 絶対的クローザー
セーブ数+登板数で一気に加点されるため、R.マルティネス級は毎年上位常連に。
△ 注意して見たいタイプ
- 援護運だけで勝ち星が増えた先発:投球回は少ないのに「10勝」のおかげでKDが盛れることがある。
- 失点が多いのに起用され続けた中継ぎ:とにかく投げてHを積むと数字だけは伸びる。
このあたりは、防御率・WHIP・FIPとセットで見て 「KDは“どれだけ投げて勝ちに絡んだか”を見る指標」と割り切るのが正解です。
5.小松式ドネーションは「使える指標」なのか?結論
結論から言うと、
- ガチ解析用の最終解答ではない。
- ただし、役割をまたいで“総合的に働いた投手”をざっくり炙り出すにはかなり便利。
2025年KDトップの顔ぶれを見ると、 「伊藤大海」「大勢」「マルティネス」「村上頌樹」「東克樹」など、 ファン目線でも「そりゃ上位だよな」と納得できる選手が並んでいる。
一方で、失点の多さや内容までは拾えないため、
- 「このKDなのに防御率ボロボロじゃん」というケース
- 逆に「イニング少ないけど内容はエグい若手エース候補」が埋もれるケース
も普通にあります。 だから、 「KDが高い=いい投手」ではなく、「KDが高い=その年チームのために投げまくった(+勝ちに絡んだ)」 くらいの意味で捉えるのがちょうどいい。
6.この記事の使い方
- チーム別に「今年のKDトップは誰?」を並べると、その球団の“影の功労者”が見えてくる。
- 過去シーズンのKDを眺めると、「あの年この投手こんなに投げてたのか」という発見がある。
- WARやFIPと併せて見ると、「量の貢献(KD)」と「質の貢献(指標)」のギャップをネタに語れる。
小松式ドネーションは、真面目とネタのちょうど中間にある指標です。
「誰がどれだけアウトを積み上げて、試合を締めてきたのか」を語るときの 話の取っ掛かりとして、これからもゆるく使っていく価値は十分あります。



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