2025年9月に「2026年から導入される」と紹介したMLBのABSチャレンジシステム(Automated Ball-Strike Challenge System)。あれから半年、予定通り2026年レギュラーシーズンの開幕戦から正式に導入された。開幕戦はジャイアンツ対ヤンキース(Netflix史上初のMLB生中継)という大舞台で、ABSの新時代が幕を開けた。
本稿では初稿の「予定情報」を、確定した最終ルール・スプリングトレーニングでの運用実績・序盤の反応にアップデートする。
【確定】ABSチャレンジ方式の最終ルール
初稿で紹介した大枠は概ね変わらなかったが、いくつか重要な追加・修正がある。
| 項目 | 初稿(2025年9月) | 最終確定(2026年2月) |
|---|---|---|
| チャレンジ回数 | 各チーム2回/試合 | 同じ。成功で回数保持も同じ |
| 延長での補充 | 回ごとに1回付与 | 手持ちゼロのチームに毎回1回付与。ただし未使用分は繰り越し不可・蓄積不可 |
| 発動方法 | 帽子/ヘルメットをタップ | 同じ。ベンチ・コーチからの指示は禁止 |
| ストライクゾーン | プレート上の3D基準 | 幅17インチ(ホームプレートと同じ)。上端=選手身長の53.5%、下端=27%。プレート中央を通過時点で判定 |
| 身長測定 | 記載なし | スプリングトレーニング中に独立テスターが全選手をスパイクなしで測定。MLB公式が身長を認定 |
| 位置選手の登板時 | 記載なし | ポジションプレイヤーが投げている場合はチャレンジ不可 |
| ドロップ3rdストライク | 記載なし | 捕手が落球したボール判定がチャレンジで三振に覆った場合、打者はそのままアウト(タッチ不要) |
| 放送での表示 | ビジョン+放送に即時表示 | 放送のゾーン枠はボール/ストライクの判定表示をやめ、ピッチ位置のみ表示。リアルタイムデータに5〜9秒の遅延あり |
スプリングトレーニングでの実績──ほぼトラブルなし
2026年のスプリングトレーニングでは全球場でABSが稼働した。2025年春のテストでは88,534球中トラッキング不能がわずか4球、チャレンジ表示の不具合が1,214件中5件だけだったため、技術面の信頼性は高い。万が一トラッキング不能の場合は元の判定が維持され、チャレンジ権は消費されない仕組みも整備されている。
すでにスプリングトレーニングの試合でチームごとの運用方針に差が出始めている。アスレチックスのコッツェイ監督は選手の自主判断に任せる方針を取り、一方パドレスなどは組織的にチャレンジ戦略を練るアプローチを取っている。
2025年のテストデータ振り返り
初稿で「1試合平均4.1件、処理時間約13.8秒」と紹介したデータは、最終的にESPNの報道で以下のように確定した。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 1試合平均チャレンジ件数 | 約4件 |
| チャレンジ成功率(全体) | 52.2% |
| 捕手のチャレンジ成功率 | 56%(最も高い) |
| 打者のチャレンジ成功率 | 50% |
| 投手のチャレンジ成功率 | 41%(最も低い) |
| 処理時間 | 約15秒 |
注目すべきは捕手の成功率が最も高い点。フレーミング技術で「際どいコースをストライクに見せる」ことに長けた捕手は、逆に「本来ストライクなのにボールと言われた球」を見抜く能力も高いということだろう。
初稿の「戦略メモ」答え合わせ
9月の記事で提示した4つの戦略的影響を検証する。
①フレーミングは”ゼロにならない” → 正解。人審が初動でコールするため、フレーミングの価値は依然として残る。ただしMLBは「ABSのゾーンは人審のゾーンよりやや狭い」と公表しており、際どい外角のフレーミングで得していた捕手はチャレンジで覆されやすくなる傾向が出る可能性がある。
②チャレンジ配分の最適化が重要 → 正解。延長での「繰り越し不可」ルールが確定したことで、9回までの2回をどう使うかの判断がより重要になった。「カウント0-2や3-0の高レバレッジ場面に温存する」という初稿の提案は、実際にチームの運用方針として広がっている。
③放送体験の向上 → やや変更あり。放送のゾーン枠からボール/ストライク判定の色分けが消え、ピッチ位置のみ表示になった。これは視聴者がABSデータをリアルタイムで悪用するのを防ぐための措置。5〜9秒の遅延も同じ理由。初稿で「ファンの納得度が上がる」と書いたが、放送画面の見え方は微妙に変わった。
④抗議や退場は減る見込み → まだ検証中。レギュラーシーズンが始まっていないため、ここはシーズン中盤以降に改めて検証したい。
NPBへの波及は?──栄村さんの時代との比較
当ブログでは栄村さんの”可変ゾーン”の哲学について書いたが、ABSの導入はまさにあの議論の延長線上にある。NPBでもストライクゾーンの判定精度は常に議論の的で、MLBでのABS運用が成功すれば、NPBへの導入議論が加速する可能性は高い。特にKBOリーグ(韓国)は2024年から完全自動化のABSを導入済みで、日本は東アジアの主要リーグで最後の人審オンリーリーグになっている。
2026年シーズンの注目ポイント
ABSのレギュラーシーズン導入は、MLBの歴史上最も大きなルール変更の一つ。今後注目すべきポイントは以下の通りだ。
チャレンジ成功率がシーズンを通してどう変化するか。打者・捕手・投手の学習効果で成功率が上がるのか、それとも審判側も精度を上げて覆りにくくなるのか。また、チャレンジの使い方が勝敗にどれだけ影響するかのデータが蓄積されれば、「チャレンジ期待値」という新しいセイバーメトリクス指標が生まれるかもしれない。Baseball Savantには既にABSチャレンジの専用ダッシュボードが用意されている。
※本記事は2025年9月28日時点の初稿を、2026年2〜3月のMLB公式発表・ESPN・Sports Illustrated等の報道に基づきリライトしたものです。



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