WBC予習先取り:韓国エース候補ウォン・テインはどんな投手?

動作分析

次回WBCで侍ジャパンが当たる可能性が高いのが、韓国代表のエース候補ウォン・テイン(원태인/Won Tae-in)。KBOサムスン・ライオンズの右腕エースで、東京五輪・WBC2023・杭州アジア大会・APBCと、ここ数年の主要国際大会をほぼフルコンプしている「代表専用機」のような存在です。

ここでは、KBOでの成績推移と国際試合での投球内容を整理しつつ、WBCで日本打線とぶつかったときのイメージを先取りしておきます。

ウォン・テインのプロフィール

  • 名前:ウォン・テイン(원태인/Won Tae-in)
  • 生年月日:2000年4月6日(25歳)
  • 投打:右投右打
  • 身長・体重:183cm・92kg
  • 所属:サムスン・ライオンズ(KBO)
  • ドラフト:2019年 サムスン1次指名で入団

KBOでの成績推移と「国内エース」への道

ウォン・テインは2019年にデビューし、2020年以降はずっとローテーションを守っている、典型的な「イニングイーター型」の先発投手です。直近のKBOでの年別成績(サムスン所属時)は以下の通りです。

年度チーム防御率勝敗投球回奪三振与四球
2019サムスン4.824勝8敗112回68奪三振39四球
2020サムスン4.896勝10敗140回78奪三振56四球
2021サムスン3.0614勝7敗158回2/3129奪三振51四球
2022サムスン3.9210勝8敗165回1/3130奪三振38四球
2023サムスン3.247勝7敗150回102奪三振34四球
2024サムスン3.6615勝6敗159回2/3119奪三振42四球
2025サムスン3.2412勝4敗166回2/3108奪三振27四球
通算サムスン3.7台68勝50敗1052回1/3730奪三振前後280四球前後

2021年に14勝・防御率3.06で「国内右腕エース」として頭角を現し、その後も5年連続で150イニング以上・防御率3点台という安定感を維持。2024年には15勝6敗・防御率3.66でKBOの最多勝タイトルを獲得し、2025年も12勝4敗・防御率3.24と、完全にリーグを代表する先発の一人になっています。

タイプとしては「奪三振マシン」ではなく、ゴロアウトと粘りでイニングを稼ぎつつ、四球が少ないコントロール型。2025年は166回2/3で与四球27と、9イニングあたり1.5個前後しか四球を出していません。KBO公式の各種ランキングでも、勝利・防御率・投球回・WHIPで毎年トップ10に入っており、「数字上も完全にエース格」と言っていい存在です。

国際大会でのウォン・テイン

ウォン・テインの特徴は、KBOだけでなく国際大会のマウンド経験の多さです。主な大会ごとに整理すると、以下のようになります。

◆ 東京五輪(2020/2021年開催)

  • 成績:4試合登板、5回1/3、9奪三振、5失点、防御率8.44
  • イスラエル戦で先発デビューも3回2失点で降板、その後は中継ぎとして起用
  • アメリカ戦ではリリーフで登板し、走者をためて痛恨の失点を喫するなど、結果としては苦い大会

当時は「KBO唯一の10勝投手」としてエース級の期待を受けていましたが、国際大会のボール・環境、慣れないリリーフ起用もあって数字は厳しめ。ここが彼にとって最初の大きな挫折でした。

◆ WBC 2023

  • 成績:3試合登板(豪州・日本・中国戦)、計4回1/3、5奪三振、4失点(自責3)、防御率6.23、1勝0敗
  • 豪州戦:1回1/3を無失点と好投
  • 日本戦:金廣鉉の後を受けて2イニング1失点。大谷・村上ら強力打線相手に必死の火消し役
  • 中国戦:中2日で今度は先発を任されるも、1回2失点で降板

数字だけ見れば決して良くありませんが、「豪州・日本・中国」と、すべて重要ゲームで使われていることからも、首脳陣の信頼は高かったことが分かります。本人も大会後に「悔しさを忘れずにもっと強くなる」と語っており、その反省が次の大会につながっていきます。

◆ 2022杭州アジア大会(2023年開催)

  • 香港戦:先発で4回1安打無失点、8奪三振
  • 中国戦:先発で6回無失点、6奪三振、最速152km/hをマーク
  • 大会通算:2試合 10回 無失点、14奪三振、与四球0

WBCでの悔しさを晴らすように、アジア大会では完全に「別人」。直球は150km/h超を連発し、カッターとチェンジアップで的を絞らせず、香港・中国を完璧にねじ伏せて金メダル獲得の原動力になりました。

◆ APBC 2023(アジアプロ野球チャンピオンシップ)

  • 台湾戦(決勝進出をかけた試合):先発で5回3安打1失点(被本塁打1)、5奪三振、無四球
  • チームは6−1で勝利し、ウォン・テインは「東京ドームでのリベンジ」に成功

この大会でウォン・テインは「国際大会で勝ち切れる先発」としてのイメージを固めました。WBCと同じ東京ドームで、強敵・台湾を相手にゲームメイクした経験は、次回WBCでも確実に生きてくるポイントです。

◆ その後の代表での位置づけ

2024年以降もアジア大会・APBCでの実績を評価され、韓国代表ではムン・ドンジュと並んで「右腕ワンツーパンチ」として扱われています。2025年秋の日韓強化試合に向けた代表合宿でも、韓国メディアはウォン・テインを「代表の柱」として紹介しており、次回WBCでもローテーションの中心を任されるのはほぼ確実な状況です。

ウォン・テインの球種と投球スタイル

ウォン・テインは、いわゆる「剛腕タイプ」ではなく、球速140km台中盤〜後半の直球に、多彩な変化球を組み合わせて打たせて取るタイプです。

  • フォーシーム:平均140km台中盤、状態が良いときは150km/h前後まで到達
  • ツーシーム(シンカー系):右打者の手元で沈むボール
  • カッター:140km前後、右打者の内角・左打者の外角に小さく曲がる球。アジア大会では中国打線に多投して空振り・凡打を量産
  • スライダー:横滑り+やや縦に割れるボールで、追い込んでからの決め球
  • チェンジアップ:主に左打者に対して使う落ちるボール。空振りを奪えるウイニングショット
  • カーブ:カウント球としても使える、やや緩めの緩急用ボール

英語サイトの分析でも、スライダーとチェンジアップがもっとも空振りを奪える球種と評価されており、真っ直ぐでカウントを整えてから、この2つで仕留めるのが基本パターンです。また、KBOでの与四球の少なさからも分かるように、ゾーン内で勝負できる制球力が持ち味。国際試合でも「ストライクを投げ込んでくる右腕」という印象が強い投手です。

一方で、2025年はリーグ2位タイとなる20被本塁打と、やや一発を浴びる場面も目立つシーズンでした。ストライクゾーンで勝負する分、甘く入った球を捉えられるリスクは常に抱えています。

WBCで日本打線と対戦したときのポイント

侍ジャパン目線で、「ウォン・テイン攻略のカギ」になりそうなポイントを整理しておきます。

① 早いカウントのストレートをどうするか

ウォン・テインは初球からストライクを取りにくるタイプで、特に右打者には高めのフォーシームでカウントを整えるパターンが多い投手です。WBC2023でも、日本打線は序盤に高めの直球を見逃してストライク先行にされ、その後の変化球で凡打というシーンがありました。

日本側としては「初球から振っていくか」「ある程度見極めて球数を投げさせるか」のゲームプランをはっきり決めておく必要があります。

② 左打者はチェンジアップ&カッターに要注意

左打者に対しては、外角低めに沈むチェンジアップと、内角に食い込むカッターのコンビネーションが非常に厄介です。アジア大会では中国打線の左打者がこのコンビネーションに苦しみ、ゴロ・凡フライを量産しました。

日本の中軸左打者(村上・牧のようなタイプを想定)にとっては、「高めの真っ直ぐ1本に絞るタイミング」と「我慢して低めを捨てるイニング」のメリハリが重要になりそうです。

③ 四球が少ない=「待ちすぎ」は逆効果

ウォン・テインはKBOでも四球が非常に少なく、「粘っていれば勝手にボール先行になるタイプ」ではありません。待ちすぎてカウント0-2, 1-2に追い込まれると、スライダーとチェンジアップで一気に仕留められるパターンが増えます。

イメージとしては、「ボール球はしっかり見極めつつ、甘いゾーンに来た球は早いカウントでも振っていく」というアプローチが必要になる投手です。

④ ロングゲームになると韓国に分があるタイプ

2025年シーズンでは20試合のクオリティスタートを記録し、5年連続で規定投球回に到達していることからも分かる通り、ウォン・テインはロングイニングを想定して組み立てるタイプの先発です。球数が増えてもフォームのバランスが崩れにくく、「6〜7回までゲームを作る」能力に優れています。

裏を返せば、日本としては「序盤から点を取りにいかないと、気付けば7回まで2失点」のような展開になりかねません。初回〜三回あたりでどれだけプレッシャーをかけられるかが鍵になりそうです。

おまけ:ウォン・テインの投球動作を可視化してみた。

WBC2023年の投球動作を可視化してみました。例によって手の末端点は速すぎてエラーがでるので、下半身と体幹のみにしています。

まとめ:WBCでは「完成形」に近いウォン・テインが来る

ウォン・テインは、東京五輪とWBC2023では数字以上に悔しい経験をした投手ですが、その後のKBO・アジア大会・APBCを経て、いまや韓国を代表する本格派右腕へと成長しました。

  • KBOでは5年連続150イニング&防御率3点台の安定エース
  • 国際大会では東京ドームのマウンド経験が豊富で、アジア大会・APBCでは「ビッグゲームピッチャー」として結果を残している
  • 150km/h前後の直球と多彩な変化球、そして抜群の制球力が持ち味

次回WBCで日本と韓国が激突するなら、その試合のどこかで必ずマウンドに上がってくるのがこのウォン・テインです。五輪や前回WBCの「未完成なエース候補」ではなく、KBOでタイトルも獲った「完成形に近いウォン・テイン」と対峙することになる――そういう前提で予習しておくと、試合の見え方がぐっと面白くなるはずです。

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