結論(要約):チャップマン(Aroldis Chapman)の速球が異常に速く、かつ“速く見える”のは、①純粋な球速(100+ mph級)、②リリース拡張(Extension)→知覚速度の上乗せ、③リード脚ブロックと骨盤−胸郭分離を核にした運動連鎖、④回転効率や空力(SSW)まで含む球質の総合効果によるものとされています。
1) まず“事実”――チャップマンの速球はガチで速い
MLBの最速到達点は105.8mph。Statcastの計測でも長年100mph前後を連発し、近年も試合レンジで高水準を維持。基礎データはMLB公式の選手ページ(Statcast)や主要メディアの記録記事で確認できる。
出典:Baseball Savant(Chapman)/主要報道まとめ
2) Extension→知覚速度:同じ球速でも“速く見える”理由
打者が感じる知覚速度(Perceived Velocity)は、ボールのリリースが前に出るほど上がる(=反応時間が減る)。Statcastの定義では、球速にリリース位置を加味して体感速度を説明する。実務の分析では、延長1ftで知覚速度が約+1.5〜+1.7mph上がる関係がしばしば示される。チャップマンは長いリーチ+適切な前進でリリースが前に出やすく、同一球速でも“速く見える”。
出典:Statcast Glossary: Extension/Perceived Velocity/分析例:SI分析(Extensionとパフォーマンス)
3) リード脚ブロック&骨盤−胸郭分離:下半身から“回転”を爆上げ
- リード脚ブロック(踏み出し脚の屈曲→伸展で前方運動を止め、反動を体幹〜上肢に返す):定量研究は膝伸展速度(およびタイミング)が球速向上と関連することを示す。プロを含む大規模サンプルでも、適切なブロックは出力増に寄与し得る。
出典:Dowling et al., 2024/Driveline, 2022 - 骨盤−胸郭分離(Hip–Shoulder Separation):骨盤→体幹→肩の順に回す“分離角”が大きいほど胸郭回転速度→球速につながる。レビュー・実験ともに整合。
出典:Bullock et al., 2020(レビュー)/Dietz et al., 2022 - ストライド(踏み出し距離):股関節可動域や脚パワーがストライド長に影響し、結果としてリリースが前に出る=知覚速度にも寄与。
出典:Albiero et al., 2021
チャップマンの速球は、このブロック×分離×ストライドのタイミング一致が抜群。地面反力→体幹トルク→肩肘→ボールというエネルギー伝達がスムーズだから、「球速」と「見かけの速さ」の両方が高水準になる。
4) 球質の“強さ”――回転効率と空力(SSW)が速さを補強
回転効率(Active Spin)や軌道(入射角/アプローチ角)が良いと、速球は“伸びる”見え方をする。さらにSeam-Shifted Wake(SSW)の研究は、縫い目が作る非マグヌスの空力が変化量や見え方に影響する可能性を示す。
出典:Baseball Savant可視化/Driveline(SSW解説)/Alan Nathan(球の物理)
5) 「速いだけで打てない」ではない――配置・知覚速度・コマンドの相互作用
同じ速球でもコースや高さで“体感速度”は変わる(高内角は反応時間が短い等)。知覚速度は空振り/見逃しと関係する一方、リリースの再現性(コマンド)や球種トンネルが欠けると威力は落ちる。チャップマン級の絶対速度+前寄りリリース+球質が揃うと、多少の荒れがあっても“速さ”が勝ちやすい。
出典:FanGraphs(知覚速度の相関)/Driveline(Effective Velocity)
6) まとめ:チャップマンの速球=「球速×知覚速度×運動連鎖×球質」
- 球速:105.8mphの到達点、今も98–100mph級。
- 知覚速度:Extensionが長く、同じ計測でも“速く見える”。
- 運動連鎖:リード脚ブロックと骨盤−胸郭分離のタイミングが秀逸。
- 球質:回転・入射角・空力(SSW)が“伸び”を補強。
参考文献・一次ソース
- Statcast:Aroldis Chapman/Extension/Perceived Velocity
- リード脚ブロック:Dowling et al., 2024/Driveline, 2022
- 骨盤−胸郭分離:Bullock et al., 2020(レビュー)/Dietz et al., 2022
- ストライド・可動域:Albiero et al., 2021
- 球質・空力(SSW/物理):Driveline(SSW)/Alan Nathan’s Baseball Physics
- 知覚速度の実務相関:FanGraphs/SI分析
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