更新日: 2025-09-22(MLBの公開データと主要分析を参照)
「最強打者は3番」という通説は、MLBではすでに過去のものになりつつある。実際、Mookie Betts、Freddie Freeman、Aaron Judge、Corey Seager、Paul Goldschmidtといった超一流が2番に座るケースは珍しくない。背景にあるのは、セイバーメトリクスが再定義した“2番の価値”だ。MLB公式の分析は、2023年に史上初めて「2番」が打順中で最も生産的なスポットになったと明示している。
前提:『The Book』が示した打順設計
打順最適化の古典『The Book』(Tom Tango / Mitchel Lichtman / Andy Dolphin)は、もっとも重要な指針として「チームの上位3人の打者は1・2・4番に、4〜5番手の打者は3・5番に」を挙げる。これは「2番は3番と同等以上の状況価値を持ち、かつ打席数が多い」という定量分析に基づく。
なぜ“2番最強”なのか:2つの数理ポイント
- 打席数の差が積み上がる 打順が早いほどシーズン累計の打席は増える。FanGraphs系の研究・実務記事は、2番が3番よりも打席機会で優位となることを繰り返し示している。
- 状況価値(Run Expectancy)の質 『The Book』は、2番が3番に劣らない(しばしば上回る)重要局面での打席を得ると指摘する。ゆえに最強打者を2番に置くことが、得点最大化の近道になる。
ミニ解析:打順ごとの「推定打席数」を可視化
FanGraphsの数式(2024年記事)Lineup Slot PAs = (10.655 × 1試合あたり得点 + 705) − ((打順−1) × 17.81)
を用い、リーグ平均的な得点環境(4.5得点/試合)で推定。下図の通り、打順が前になるほど打席が着実に増え、2番と3番の差もシーズン規模では無視できない。
あわせてCSVも用意(記事末リンク)。チームの得点環境(例:3.8、4.2、4.5、5.0得点/試合)で比較しても、上位配置の有利は一貫している。
反論に答える:「RBIが減るのでは?」
「2番に置くとRBIが減って見栄えが悪い」という懸念は根強い。実際、RBIはクリーンアップの方が稼ぎやすい。ただしこれは“評価指標の見え方”の問題でもある。総打席の増加と状況価値の高さがもたらす総得点貢献(wRC+や得点創出)は、2番配置でも十分に上積み可能だ。
MLBの実例:一流打者の「1番/2番」化
MLB公式の整理では、2021年以降、1〜4番の相対生産性は「1番:+7%、2番:+14%、3番:+15%、4番:+10%」と推移し、2023年は2番が打順中で最も生産的に。実運用としても、Acuña Jr.やBettsの1番、Freeman/Trout/Judge/Seager/Goldschmidtらの2番起用が“新常識”になっている。
3番の再定義と4・5番の役割
『The Book』由来の示唆では、3番は「2アウト無走者」のような薄い局面が相対的に多く、同じ強打者を置くなら2番や4番の方が総得点を増やしやすい。4番は長打特化の最強打者に適し、5番は残塁回収力や四球を含む総合力で価値を出しやすい。
実務ルール(コーチ向け要約)
- ベスト3は1・2・4番へ(うち最強は2番)。
- 4〜5番手は3・5番へ。5番は四球も稼げる総合型が好適。
- 打席配分を優先──2番は3番よりも打席が増える。
- RBI“見栄え”とチーム最適の管理──タイトル狙い等の事情があれば例外も。
結論:強打者はどこに置くべき?
最強打者は2番、次点で4番。そして高出塁の強打者を1番に。これは「打席機会 × 状況価値」を最大化する設計であり、MLBの実際の起用と整合する。
補足:現場での微調整ポイント
- 並びとタイプ:右左や併殺傾向、走塁質で2番のタイプを微調整。
- 環境変化:シフト制限・ボール・ゾーン傾向が変わっても、上位配置の優位(打席数増)は普遍。
- 選手の評価設計:RBIやHRのタイトル狙いがあるなら、4番寄りも選択肢。
参考・出典
- MLB.com「Number 2 spot in lineup now the best in baseball」:2023年に2番が最も生産的になった経緯と具体数値(相対OPS%など)を解説。(Sep 8, 2023)(出典:MLB.com)
- Hardball Times(FanGraphs)「Constructing Lineups」:『The Book』の打順ガイドライン(1・2・4番にベスト3)。(Mar 2, 2006)(出典:FanGraphs / THT)
- Beyond the Box Score「Optimizing Your Lineup By The Book」:3番の相対的重要度の低さ、2番・4番の価値整理。(Mar 17, 2009)(出典:Beyond the Box Score)
- FanGraphs(Fantasy/RotoGraphs)「Plate Appearances by Lineup Spot」ほか:上位打順ほど打席が増える傾向の整理。(複数年)(出典:FanGraphs)
- FanGraphs(2024)「Estimating Playing Plate Appearances Knowing Team Talent」:本文で用いた推定打席数の式と例。(Mar 15, 2024)(出典:FanGraphs)
- Baseball Savant(Statcast):「守備シフト→シェーディング」等の環境的背景。(2023以降)(出典:BaseballSavant.mlb.com)
コメント