プロが採用する“投手再現マシン”Trajekt Arc:導入球団と〈導入前後の打撃成績〉をまとめて解説

野球

相手投手の等身大映像と同じリリース位置から、球速・回転・変化までを再現して打てる――。カナダ発のピッチングマシン「Trajekt Arc(トラジェクトアーク)」は、打席の“予習”を実戦感覚で可能にする装置として、MLB・NPBで急速に普及しています。この記事では、どの球団が導入しているのかいくらかかるのか、そして導入前後で打撃成績はどう変わったのかを、一次情報と公式データをもとに整理します。


Trajekt Arcとは何か:要点だけ

  • Hawk-Eye等のトラッキングデータと投手映像を組み合わせ、特定投手の球筋とリリースを再現。2024年からは試合当日の屋内ケージでの使用をMLBが容認しました。
  • 費用は月1.5万〜2万ドル(リース)との報道が複数。3年総額で約50万ドル規模と見積もられています。

導入状況:MLBは「25球団」まで拡大、未導入の代表はナショナルズ

2025年6月時点でMLB25球団が導入。一方でワシントン・ナショナルズは未導入で、代替としてiPitchやVR(Win Reality)を活用していると報じられています。

近年の導入が確認できる主な球団

  • コロラド・ロッキーズ:2025年4月、本拠地クアーズ・フィールドへ移設し本格運用開始(MLB.com)。
  • マイアミ・マーリンズ:2025年春のキャンプから導入(MLB.com/地元公共ラジオ)。
  • サンフランシスコ・ジャイアンツ:2025年春に導入。リース費月1.5〜2万ドルと報道(S.F. Chronicle/SBJ)。
  • ボストン・レッドソックス:フェンウェイのホームケージに2022年導入、組織で3台運用との報。

NPBの導入・拡大

  • 福岡ソフトバンクホークス:みずほPayPayドームの室内練習場に3年リース約1億円で導入と報道(先行は筑後のファーム施設)。
  • メーカーは2023年にNPB初導入(球団名非公表)をプレスリリース。
  • 国内報道では、巨人など他球団の活用も伝えられています(導入を“公式化”しないケースが多い点に留意)。

導入前後の打撃成績はどう変わったか(チームベースの“見える化”)

前提:成績は選手の入れ替え、健康状態、打撃コーチの方針、球場環境、対戦相手、ボールの特性など多要因で決まり、機器の効果だけを切り分けることはできません。ここでは公式のチーム指標(OBP/SLG/OPS)で「導入期の前後」を概観します。

NPB・福岡ソフトバンク(導入強化期:2024→2025)

  • 2024年:出塁率.327/長打率.394OPS .721(NPB公式・パ・リーグ全体チーム打撃)。
  • 2025年(9/25時点):出塁率.322/長打率.366OPS .688(球団公式「チーム打撃成績」)。

単年比較ではOPSが-0.033。ただし2025年はリーグ全体で投手優位傾向が続き、得点環境の揺らぎもあるため、Trajekt Arc単体の効果を断定するのは適切ではありません。参考までに、NPBのチーム打撃傾向や順位と打撃指標の相関はリーグ公式/PLM解説でも示されています。

MLBのスナップショット(導入拡大期:2024→2025)

  • リーグ全体のルール変化:2024年から試合当日の屋内ケージ使用が容認され、対戦投手の“見え方”調整が一般化。
  • 2024年のチームOPS分布:MLB公式のチームOPSリーダーボード(2024年)を参照。特に強打のチームは.750〜.780台に集中。

チーム単位の前後差は、補強や主力の健康状態の影響が大きく、導入直後に劇的改善というより“準備の質”の底上げとして徐々に効く、という現場の声が多い印象です(ロッキーズ野手のコメント等)。


現場で何が起きているか:導入球団の使い方

  • ロッキーズ:春季にパフォーマンスラボで運用→シーズン開幕に合わせて本拠地へ移設。主力野手は「走者得点圏でも初球から対応しやすい」と効果を語る。
  • マーリンズ:技術投資の一環として複数拠点に設置。若手の“球見”能力(見極め)の強化を狙う。
  • ジャイアンツ:スペース制約を考慮したうえで導入。月1.5〜2万ドルの費用対効果を見極めながら運用。

費用と導入ハードル:数字で把握

  • 費用感(MLB):月1.5〜2万ドル/3年契約(S.F. Chronicle、SBJ)。
  • 費用感(NPB)3年で約1億円(ソフトバンク関連の国内報道・取材記事)。
  • 未導入の理由例:コスト・スペース・既存ルーティンとの相性。ナショナルズはiPitchやVRを選択。

メリット/注意点:公平性の議論も

  • メリット:特定投手のリリース視覚・球筋・タイミングを実スイングで事前体験できる。準備の精度が上がり、“初球から戦える”確率が高まる。
  • 注意点「毎球が同条件で来る」という装置の性質上、ゲームの揺らぎ(配球の意外性、投球のバラつき)と乖離しすぎない工夫が必要という指摘も。

まとめ:いま書くべき“導入球団”のポイント

  1. MLBは実質スタンダード化:2025年時点で25球団が導入。未導入の代表はナショナルズ。
  2. NPBも静かに拡大:ソフトバンクが本拠地設置を進め、1億円級の投資が実例化。他球団も報道ベースで活用が明らかに。
  3. 成績の見え方:短期でOPSが跳ねるとは限らない。準備の質を底上げし、打者の見極めや初球対応の精度を高める“インフラ”として定着しつつある。

付録:編集メモ(引用・取材の当たり先)

  • 制度面の背景(MLBが試合当日使用を容認):ESPN特集。
  • 費用の相場感(月1.5〜2万ドル):S.F. Chronicle/Sports Business Journal。
  • 導入球団の一次情報:ロッキーズ(MLB.com)マーリンズ(MLB.com/WLRN)ジャイアンツ(S.F. Chronicle他)
  • NPBの実例:ソフトバンク(ニッカン)NPB初導入リリース(Trajekt)巨人の活用報道(スポニチ)
  • 成績比較の根拠:NPB公式チーム打撃(2024/2025)MLB公式チームOPS(2024)

※本記事の数値と球団名はすべて公開情報に基づきます。導入は各球団の非公表分も多く、公式発表/一次報道で裏付け可能な範囲に限定して記載しています。

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