1. 一言でいうとどんな年?
2025年のブルージェイズは、「復活」どころではなく “ほぼ頂点まで行った、新しい黄金期の予告編”と呼べるチームでした。
レギュラーシーズンは94勝68敗(勝率.580)。同じく94勝68敗だったヤンキースとの直接対決成績(8勝5敗)で上回り、 2015年以来となるア・リーグ東地区優勝を達成。さらにア・リーグ全体1位シードとしてポストシーズンへ進みました。
しかもこれは、前年の74勝88敗からの大幅なジャンプ。ア・リーグ東の中でヤンキース(94勝68敗)やレッドソックス(89勝73敗)を押さえての1位は 「1年で別チームになった」と言われるくらいのインパクトがありました。
その勢いのまま、ブルージェイズは
・ALDSでヤンキースを撃破(3勝1敗)
・ALCSでマリナーズとの死闘を第7戦で制してア・リーグ優勝=リーグ優勝ペナント獲得(1993年以来、32年ぶり)
最終的にはワールドシリーズでドジャースとフルセットにもつれ込み、第7戦・延長11回の末に惜敗(シリーズ4勝3敗でドジャース)。 1992年・1993年以来の世界一にはあと一歩届かず終わりましたが、ブルージェイズは10月の“最終ステージ”を本気で争う存在だと北米全体に証明しました。
つまり2025年は、「もうただのダークホースじゃない。タイトルを獲りに来た本物の強豪」として認識された年でした。
2. レギュラーシーズン:どうやって勝った?
キーワードは『安定した投手力 × しぶとい打線 × ベテランと若手のかみ合わせ』。
投手陣
先発ローテーションは、ケビン・ガウスマン/ホセ・ベリオス/クリス・バシットという既存の柱に加え、 40歳を迎えたマックス・シャーザーが加入(1年1550万ドルと報じられた契約)。 シャーザーは開幕後すぐ故障リスト入りする場面もあったものの、復帰後は「試合を壊さないベテラン」の仕事を遂行。 ポストシーズンでは41歳にしてALCS第4戦の勝利投手になるなど、まだ“生きる伝説”であることを証明しました。
ブルペンでは、フィリーズから戻ってきたオールスター右腕ジェフ・ホフマン(3年3300万ドル)が9回の不安を埋めて 「リードしたら勝ち切れる」形を整備。
チーム全体では162試合での失点が721、得失点差+77。大量失点ゲームで一気に崩れる展開を減らし、 結果として勝率.580を安定的に維持できる土台ができました。
野手陣
打線の中心はもちろんウラジミール・ゲレーロJr.。 レギュラーシーズンでは打率.292、23本塁打、84打点というラインで、「規格外の怪物HR量産モード」よりも 「勝負どころできっちり仕留める中軸」の色が濃くなったと言えます。
それを取り巻くのがボー・ビシェット、ジョージ・スプリンガー、二塁の守備職人タイプであるアンドレス・ヒメネス、 そして左右両打ちの外野オプションとして加入したアンソニー・サンタンデルなど。
チームはシーズン798得点。
・上位打線だけで殴る一発依存型ではない
・8番9番やベンチ要員(アーニー・クレメントやダルトン・ヴァーショなど)が出塁や進塁で粘り、 最終的にゲレーロJr.やスプリンガーが仕留める
という「チャンスを延命して最後に刺す」形が浸透していました。
9月21日のロイヤルズ戦でポストシーズン進出が確定し、9月28日のレギュラーシーズン最終戦で 地区優勝とア・リーグ1位シードを同時に手繰り寄せるという、ドラマ的なフィニッシュになりました。
3. ポストシーズン:10月のジェイズは“別モード”
ALDS vs ヤンキース(3勝1敗)
同じ94勝68敗でシーズンを終えたヤンキースとの初のポストシーズン直接対決は、 ブルージェイズ打線が一気に火を噴く展開に。 ウラジミール・ゲレーロJr.が満塁弾を含むクラッチ打を連発し、攻撃で常に先手を握るシリーズ運び。 「ア・リーグ東の本当の王者はどっちだ?」という議題に、ジェイズがはっきり答えを出しました。
ALCS vs マリナーズ(4勝3敗/ア・リーグ優勝)
ア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)はシアトル・マリナーズと殴り合い。 トロントはシリーズ開始2連敗で「マリナーズが球団史上初のワールドシリーズ進出か?」という空気にまで追い込まれます。
そこから粘り倒し、第7戦(10月20日)まで持ち込むと、 ジョージ・スプリンガーが7回に逆転3ラン。最終的に4-3で勝利し、1993年以来32年ぶりにア・リーグを制覇。 トロントにリーグ優勝ペナントが戻りました。
このシリーズのMVPはウラジミール・ゲレーロJr.。 打率.385、3本塁打と、完全に「ポストシーズンで球団の命運を握る男」になりました。
さらに特筆すべきは41歳マックス・シャーザー。 「もう全盛期は過ぎた?」と言われながら、ALCS第4戦でビンテージ級の好投と勝利投手という結果で応え、 “ベテランがシリーズをつなぐ”という物語をリアルにしてみせました。
ワールドシリーズ vs ドジャース(3勝4敗)
最終ステージの相手は、スター軍団ロサンゼルス・ドジャース。 彼らは山本由伸ら超大型契約組を擁し、“MLBの銀河系クラブ”とも言われる戦力でした。
シリーズは激烈。第1戦はトロントが11-4で取り主導権を握り、第3戦はドジャースが延長18回のマラソンを制して取り返すという展開。
第5戦終了時点ではブルージェイズが3勝2敗で王手──本当に、あと1勝でした。
しかし第6・第7戦でドジャースは総力戦。
第7戦は延長11回、5-4でドジャース。決勝弾はウィル・スミス、最後は山本由伸が2日連投で締め、 ドジャースが2年連続世界一となりました。
ブルージェイズ視点では「延長11回までいった第7戦」での敗退という事実が重い。 これは“準優勝”ではなく、北米中が固唾をのんで見た等身大の頂上決戦でした。
4. ブルージェイズの「強さ」はどこにある?
(1) スターの覚醒と「主役は誰か」の更新
ウラジミール・ゲレーロJr.は、もはや「名選手の息子」や「若い長距離砲の1人」ではなく、 “10月にチームの運命を決めるMVP級バッター”になりました。ALCS MVPという肩書きは、 彼が球団の看板であることを公式に証明したと言っていい内容です。
(2) ベテランの価値
ジョージ・スプリンガーは、アストロズ時代から「10月の男」と呼ばれてきたポストシーズンスペシャリスト。 そのスプリンガーがALCS第7戦で打った逆転3ランは、FA大型契約は無駄じゃなかったと全ファンに思わせる一撃でした。
マックス・シャーザーは「まだ行けるの?」という声に対し、「行ける」と結果で返した。 あの存在感はチームのメンタルそのものに直結していて、若手に“勝ち方の温度”を体感させています。
(3) 投手陣の底の厚み
ガウスマン/ベリオス/バシットの安定感あるローテーションに、シャーザーという心臓の強いベテラン。 そして最後を締めるためのホフマンら整備済みブルペン。 「今日は誰を出せばいいんだ?」で迷わない形は、短期決戦でとにかく効きました。
(4) “勝つ形”を理解したチーム作り
フロント(社長マーク・シャパイロ、GMロス・アトキンス)と監督ジョン・シュナイダーが、 ただ年俸総額を積むのではなく、 「終盤のブルペン」「打線の巡りの薄さ」「内野守備」など明確な弱点をひとつずつ潰す補強 に舵を切ったのが2025年の特徴でした。
現実的な話として、2024年は74勝88敗で守備・ブルペンともに崩れ気味だったチームが、 わずか1年で地区優勝&リーグ優勝ペナント級ロースターになった、というのはフロント評価を一気に変える材料です。
つまり2025年のブルージェイズは、 「若いスター × 高額ベテラン × 整備された投手陣」 がガッチリはまった“完成度の高い優勝候補型チーム”。 これは単発のシンデレラストーリーではなく、 「来年もふつうに優勝候補ですけど?」と胸を張れるレベルに到達したことを意味します。
5. ブルージェイズの歴史の中で、2025年はどんな意味を持つ?
ブルージェイズは1977年創設の拡張球団で、 ワールドシリーズ制覇は1992年・1993年の2回。 これはMLB史上初のカナダ球団による世界一として記憶されています。
その後は長い低迷期とポストシーズンからの遠ざかりが続きました。2015年には地区優勝とア・リーグ優勝決定シリーズ進出で 一度浮上したものの、そこから先、つまりリーグ優勝ペナント=ワールドシリーズ進出には届かなかった。
2025年はその壁を破りました。
・32年ぶりにア・リーグを制してワールドシリーズ進出。
・そのワールドシリーズで、スター集団ドジャース相手に第7戦・延長11回までもつれ込む、北米中が固唾をのんだ決戦を演じた。
これはただ「強かったね」という一年ではなく、 “1993年の記憶を、いまの世代(ゲレーロJr.世代)に上書きしたシーズン”です。 ファン、フロント、そして街トロントにとって、 「ブルージェイズはまた主役に戻ってきた」という確信そのものになりました。
まとめ
- レギュラーシーズン94勝68敗、ア・リーグ東地区優勝&リーグ1位シード。
- ALDSでヤンキース撃破、ALCSでマリナーズに大逆転勝ち → 32年ぶりア・リーグ優勝。MVPはウラジミール・ゲレーロJr.。
- ワールドシリーズはドジャースとフルセット。第7戦は延長11回・5-4で惜敗=世界一はあと1勝の距離。
- 若いスター、10月に強いベテラン、厚い投手陣、そして弱点をピンポイントで埋めるフロント。これは継続性のある“本物の強豪チーム”のかたち。
- 球団史的には「1992-93」以来の物語を、2025年版にアップデートしてみせたターニングポイントの年。
結論として、2025年のブルージェイズは「ついに帰ってきた」。その証拠はスコアボードだけでなく、 10月、カナダ、そしてア・リーグ全体の空気がはっきり教えてくれました。



コメント