投手の「隔年」とは何なのか?一年おきに成績が上下する選手の特徴を武田久らで考える

野球

野球ファンの間でたまに出てくる言葉に、「隔年投手」があります。

今年はめちゃくちゃ良い。翌年はなぜか打たれる。その次の年にまた復活する。こういう一年おきの上下が見える投手に対して、「この投手は隔年だよな」と言われることがあります。

ただし、結論から言うと、隔年は公式な分類ではありません。かなりファン目線の言葉です。しかも、実際に成績を見ていくと「本当に一年おきに実力が変わっている」というより、リリーフ投手特有のサンプルの少なさ、疲労、起用法、運の揺れ、役割変更が重なって、隔年っぽく見えているケースが多くなります。

この記事では、北海道日本ハムで長く勝ちパターンを担った武田久投手を中心に、山﨑康晃、増田達至、益田直也、永川勝浩といった救援投手の年度別成績も見ながら、「隔年投手」とは何なのかを整理します。

この記事の結論

投手の「隔年」とは、一年おきに良い年と悪い年を繰り返しているように見える状態のことです。ただし、投手の能力が本当に毎年上下しているというより、特にリリーフでは投球回が少ないため数試合の炎上で防御率が大きく動くこと、前年度の登板過多による疲労、被本塁打・残塁率・BABIPなどの揺れ、役割変更や相手の対策が重なって起きることが多いです。武田久投手は2008年防御率4.40→2009年1.20、2010年3.83→2011年1.03という反動が非常に分かりやすく、隔年投手を考える好例といえます。

目次

  1. 隔年投手とは何か
  2. なぜ野手より投手で言われやすいのか
  3. 武田久投手はなぜ隔年っぽく見えるのか
  4. リリーフの防御率は数試合で壊れる
  5. 隔年っぽく見える投手の例
  6. 隔年投手に見える5つのパターン
  7. 防御率だけで隔年と決めつけるのは危険
  8. 次の年に復活する投手の見分け方
  9. よくある質問
  10. まとめ
  11. 参考文献・出典

隔年投手とは何か

「隔年投手」とは、簡単に言えば良い年と悪い年が一年おきに来るように見える投手のことです。

たとえば、次のような並びです。

年度成績の見え方ファンの反応
1年目防御率1点台〜2点台で大活躍「完全に勝ちパターン」
2年目防御率4点台〜5点台に悪化「去年は何だったのか」
3年目また防御率1点台〜2点台に復活「やっぱり隔年か」

ここで大事なのは、隔年という言葉がかなり雑な印象語だということです。

実際には、きっちり「良い・悪い・良い・悪い」と並ぶ選手は多くありません。むしろ、2年続けて良い年もあれば、悪い年がケガで説明できることもあります。それでもファンの記憶には、悪い年の翌年に鮮やかに復活した投手が「隔年っぽい」と残りやすいのです。

なぜ野手より投手で言われやすいのか

隔年という言葉は野手にも使われますが、特に言われやすいのは投手です。理由はかなりシンプルで、投手成績は揺れやすいからです。

とくにリリーフ投手は、年間50〜60イニング前後で評価されることが多くなります。先発投手のように150〜180イニング投げるわけではありません。そのため、数試合の炎上、数本の被弾、満塁での走者一掃などが、シーズン防御率に強烈に残ります。

実際、FanGraphsの年度間相関の分析では、リリーフ投手の成績は先発投手よりも年ごとの安定性が低く、たとえば救援投手のHR/FBの年度間相関はかなり低い数字として示されています。リリーフは投球イニングが少ないぶん、三振率や四球率のような比較的安定しやすい項目でさえ、先発より揺れやすく見えます。FanGraphsの分析でも、リリーフのパフォーマンスが年ごとに不規則になりやすいことが指摘されています。

つまり、隔年投手という言葉の正体は、かなりの部分が「救援投手の成績はそもそもブレやすい」という話でもあります。

武田久投手はなぜ隔年っぽく見えるのか

隔年投手を考えるうえで、武田久投手はかなり分かりやすい例です。

武田久投手は北海道日本ハムで中継ぎ・抑えとして長く活躍し、NPB通算では534登板、31勝30敗、167セーブ、107ホールド、防御率2.61を記録しました。年度別成績を見ると、特に2008年から2011年にかけての上下が目立ちます。

年度登板勝敗SH投球回防御率見え方
2006755勝3敗34081.22.09優秀なセットアッパー
2007647勝6敗22874.12.42引き続き安定
2008624勝7敗62161.14.40一気に悪化
2009553勝0敗34460.01.20抑えで大復活
2010581勝5敗19456.13.83また苦しい年
2011532勝2敗37152.11.03キャリア屈指の安定感
2012564勝4敗32354.12.32悪くない
2013472勝2敗31147.12.28まだ十分に優秀

※NPB公式の個人年度別成績をもとに作成。

この並びを見ると、たしかに2008年に崩れる→2009年に復活→2010年に崩れる→2011年に復活という流れがかなり強烈です。

ただし、武田久投手を「完全な隔年投手」と断定するのは少し雑です。2006年、2007年は連続で安定していますし、2012年、2013年も2年続けて優秀です。つまり武田久投手の場合は、毎年きれいに交互というより、悪い年の翌年に大きく跳ね返すタイプと見るほうが近いでしょう。

リリーフの防御率は数試合で壊れる

隔年に見える最大の理由は、リリーフ投手の投球回が少ないことです。

たとえば、年間60イニングのリリーフ投手を考えると、防御率は次のように動きます。

60イニングでの自責点防御率印象
8自責点1.20鉄壁の守護神
15自責点2.25十分優秀
24自責点3.60ちょっと不安
30自責点4.50勝ちパターン失格扱いされやすい

60イニングで考えると、自責点がたった16点違うだけで、防御率1.20と3.60まで変わります。

しかもリリーフは、ランナーを背負った場面や1点差での登板が多くなります。1試合の失敗が勝敗に直結しやすく、ファンの記憶にも残ります。防御率の数字以上に「今年は怖い」「去年は安心できた」という印象差が生まれやすいのです。

隔年っぽく見える投手の例

武田久投手以外にも、救援投手には「良い年と悪い年の差が大きい」選手がいます。ここでは、隔年っぽく見える代表例をいくつか整理します。

山﨑康晃:復活と苦戦の振れ幅が大きい守護神型

DeNAの山﨑康晃投手は、ルーキーイヤーから守護神として大きなインパクトを残した一方で、年度別に見ると防御率の上下がかなりあります。

年度登板セーブ防御率見え方
201558371.92新人守護神として大成功
201659333.59やや悪化
201768261.64復活
201857372.72タイトル級だが防御率は上昇
201961301.95再び安定
20204065.68大きく苦戦
202256371.33完全復活級
202349204.37また苦戦

山﨑康晃投手の場合も、きれいな隔年というよりは、抑えの成績は一度崩れると数字にも印象にも大きく出るという例です。抑えは登板のほとんどが重要局面なので、同じ防御率悪化でも目立ち方が段違いになります。

増田達至:悪い年のあとに戻してくる反発型

西武の増田達至投手も、年度別で見ると「落ちた翌年に戻す」印象が強い投手です。

年度登板セーブ防御率見え方
201653281.66抑えとして大成功
201757282.40まだ優秀
201841145.17苦戦
201965301.81復活
202048332.02継続して優秀
20213384.99また苦戦
202252312.45再び戻す
202340195.45再悪化

2018年に5.17、2019年に1.81、2021年に4.99、2022年に2.45、2023年に5.45。このあたりの並びは、かなり隔年っぽく見えます。

益田直也:長く投げるほど波も見える継続型

ロッテの益田直也投手は、長期にわたって一軍ブルペンを支えてきた投手です。通算登板数が多いぶん、年度別の波もはっきり見えます。

たとえば2016年は防御率1.83と優秀でしたが、2017年は5.09まで悪化。その後2018年3.08、2019年2.15、2020年2.25、2021年2.24と立て直しています。2022年以降も3点台、2点台、4点台と揺れています。

益田投手の場合は隔年というより、長く勝ちパターンを続ける投手は、良い年だけでなく苦しい年も必ず数字に残るという見方が合っています。長く投げ続けること自体がすごいからこそ、波も蓄積されていきます。

永川勝浩:抑え投手の上下が時代を問わず起きる例

広島の永川勝浩投手も、若い時期の年度別成績を見ると上下がかなりあります。

年度登板セーブ防御率見え方
20042247.99大苦戦
20055723.13立て直し
200665271.66大活躍
200761313.06やや悪化
200856381.77復活
200956362.73数字は落ちるが十分戦力

抑え投手の上下は、近年だけの話ではありません。リリーフという役割そのものが、昔から数字の波を生みやすいのです。

隔年投手に見える5つのパターン

では、なぜ投手は隔年っぽく見えるのでしょうか。大きく分けると、次の5つです。

1. 登板過多の翌年に落ちる

もっとも分かりやすいのは、前年に投げすぎたケースです。

勝ちパターンのリリーフは、チームが強いほど登板が増えます。接戦も増えます。連投も増えます。シーズン終盤やポストシーズンまで投げれば、翌年に疲労が残ることもあります。

「去年はあれだけ良かったのに、今年はなぜか球が走らない」という場合、原因は精神論ではなく、単純に身体の回復が追いついていない可能性があります。

2. 相手に研究される

大活躍した投手は、翌年に当然研究されます。

決め球は何か。カウント別に何を投げるのか。右打者と左打者で配球は違うのか。走者を背負うと何が増えるのか。今は映像もデータも豊富なので、前年に通用した型がそのまま通り続けるとは限りません。

特にリリーフは、基本的に球種が少ない投手も多いです。武器が明確なぶん、対策されると一気に苦しくなります。

3. 役割が変わる

同じ投手でも、セットアッパーと抑えでは見え方が変わります。

抑えはセーブ機会で投げるため、失敗がとにかく目立ちます。1点差の9回に打たれれば、ただの1失点では済みません。チームの勝敗、ニュース、SNSの反応まで全部ついてきます。

逆に、防御率が同じ3.50でも、ビハインド中心の投手と守護神では受け取られ方がまるで違います。「隔年」の印象は、数字だけでなくどの場面で失点したかにも左右されます。

4. 被本塁打と残塁率の揺れ

投手の防御率は、被本塁打やランナーの残り方に大きく影響されます。

同じ被安打数でも、走者なしで単打を打たれるのと、四球の後に本塁打を打たれるのでは失点がまったく違います。FanGraphsのLOB%解説でも、多くの投手の残塁率はリーグ平均付近に戻りやすく、極端に高い・低い残塁率は将来的に平均へ寄りやすいと説明されています。

つまり、ある年に「ピンチで全部抑えた」投手が、翌年に「同じような内容なのに走者を返してしまう」ことは普通にあります。これも隔年っぽさを生みます。

5. 防御率だけを見ている

最後に一番大きいのが、ファンが見ている指標の問題です。

防御率は分かりやすい一方で、守備や運、打球の落ち方、登板場面の影響を受けます。1.02の用語解説でも、防御率は9イニングあたりの自責点を示す数字であり、被安打が守備や運に左右されるため、セイバーメトリクスでは投手の働きを表す指標として必ずしも重視されないと説明されています。

だからこそ、投手を見るときは防御率だけでなく、奪三振、与四球、被本塁打、WHIP、FIP、tRAなども合わせて見る必要があります。

防御率だけで隔年と決めつけるのは危険

「今年は防御率が悪いから劣化した」と決めつけるのは危険です。

たとえば、防御率が悪化していても、奪三振率が落ちていない、四球が増えていない、球速も落ちていないなら、内容自体はそこまで悪くない可能性があります。逆に、防御率は良くても、三振が減り、四球が増え、強い打球を浴びているなら、翌年に一気に悪化する可能性があります。

ここで役立つのが、FIPやtRAの考え方です。1.02のFIP解説では、FIPは守備が関与しない与四球・奪三振・被本塁打を中心に投手を評価する指標とされています。さらにtRAは、FIPの考え方に加えて、どのような種類の打球を打たれたかまで踏み込んで評価する指標です。

見る指標何が分かるか隔年判定での使い方
防御率結果として何点取られたかまず見るが、これだけでは危険
WHIPどれだけ走者を出したか失点前の危険度を見る
奪三振率自力でアウトを取れているか球威・決め球の維持を見る
与四球率制球が崩れているか不調が本物かを見る
被本塁打一発で失点しているか防御率急悪化の原因になりやすい
FIP / tRA守備や運の影響をある程度除いた評価防御率の見かけ倒しを確認する

隔年投手かどうかを見るなら、理想は防御率の上下と、奪三振・四球・被本塁打・球速・起用法の変化をセットで見ることです。

次の年に復活する投手の見分け方

では、悪い年を過ごした投手が翌年に戻ってくるかどうかは、どこを見ればいいのでしょうか。

目安になるのは、次のポイントです。

  • 球速が大きく落ちていない
  • 奪三振率が大きく落ちていない
  • 四球が急増していない
  • 被本塁打だけが極端に増えている
  • ケガ明け、連投明けなど説明できる要素がある
  • 悪い年でも空振りは取れている

逆に危ないのは、球速が落ち、三振が減り、四球が増え、被打球も強くなっているパターンです。この場合は「隔年だから来年戻る」と楽観するより、投球の土台そのものが変わっている可能性を疑ったほうがいいでしょう。

武田久投手のように悪い年の翌年に大きく戻せる投手は、単に運が良かっただけではありません。長く一軍で勝ちパターンを張れるだけの技術、修正力、メンタル、起用に応える準備があったからこそ、復活できたと見るべきです。

よくある質問

隔年投手は悪い意味ですか?

基本的には少し揶揄を含む言い方です。ただし、悪い年があっても翌年に戻せるという意味では、修正力の高さを示しているとも言えます。毎年悪いより、隔年でも良い年がある投手のほうがチームへの貢献は大きいです。

武田久投手は本当に隔年投手ですか?

完全な隔年投手というより、悪い年の翌年に強烈に復活した印象が残っている投手です。2008年防御率4.40から2009年1.20、2010年3.83から2011年1.03という並びは非常に隔年っぽい一方で、2006〜2007年、2012〜2013年は連続して安定しています。

なぜリリーフ投手は成績が上下しやすいのですか?

投球回が少ないため、数試合の炎上や数本の被本塁打で防御率が大きく動くからです。また、登板場面が高圧なこと、連投があること、役割が変わることも影響します。

先発投手にも隔年はありますか?

あります。ただし、先発は投球回が多いため、リリーフよりは数字がならされやすいです。先発の場合は、防御率の上下だけでなく、投球回、故障、球速、奪三振率、与四球率、援護率まで見たほうが実態に近づきます。

防御率が悪い年は全部運が悪いだけですか?

そうとは限りません。球速低下、制球悪化、決め球の劣化、フォームのズレ、ケガなど、実力面の問題で悪化しているケースもあります。大事なのは、防御率だけでなく中身を見ることです。

まとめ

投手の「隔年」とは、一年おきに成績が良くなったり悪くなったりしているように見える現象です。

ただし、その正体は単純ではありません。

  • リリーフは投球回が少なく、防御率がブレやすい
  • 1〜2試合の炎上でシーズン成績が大きく変わる
  • 前年の登板過多や疲労が翌年に出る
  • 相手の研究、役割変更、被本塁打、残塁率の揺れも影響する
  • 防御率だけでなく、奪三振・四球・被本塁打・FIP・tRAなどを見る必要がある

武田久投手は、2008年から2011年にかけての上下が非常に分かりやすく、隔年投手を考えるうえで面白い例です。ただし、通算で見ると534登板、防御率2.61、167セーブ、107ホールドの名リリーフです。

「隔年だからダメ」ではなく、なぜその年は悪かったのか、なぜ翌年に戻せたのかを見ると、投手成績の面白さがかなり深くなります。

結論:隔年投手とは、実力が毎年入れ替わる投手ではなく、投手成績の揺れやすさがファンの記憶に残った姿である。

参考文献・出典

  1. NPB.jp 日本野球機構「武田久 個人年度別成績」
  2. NPB.jp 日本野球機構「山﨑康晃 個人年度別成績」
  3. NPB.jp 日本野球機構「増田達至 個人年度別成績」
  4. NPB.jp 日本野球機構「益田直也 個人年度別成績」
  5. NPB.jp 日本野球機構「永川勝浩 個人年度別成績」
  6. FanGraphs「Reliever Pitching Metric Correlations, Year-to-Year」
  7. FanGraphs Library「Regression toward the Mean」
  8. FanGraphs Library「LOB%」
  9. 1.02 Essence of Baseball「防御率(Earned Run Average)」
  10. 1.02 Essence of Baseball「FIP(Fielding Independent Pitching)」
  11. 1.02 Essence of Baseball「tRA(true Runs Average)」
  12. パ・リーグ.com「リリーフがチームのカギ握る データで見る投手分業制【後編】」
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