ロッテの安田尚憲が、2024・2025年と2年連続で公式戦本塁打0本。2023年シーズン最終戦で則本昂大から放った9号ソロを最後に、レギュラーシーズンでは実に526打席連続ノーアーチという、極端な数字を残しています。
本人も「500打席ホームラン1本も打てていないので、どうにかしてください」と柳田悠岐に自主トレ参加を“直談判”したことが報じられ、 フェニックスL派遣時にも「500打席くらい出ていないんで恥ずかしい限り」と語っています。
かつてはシーズン6本・8本・9本・9本と、将来の中軸候補として着実に本塁打を積み上げてきた左の大砲候補に、いったい何が起きたのか。 2023年と2025年のスタッツを比較しながら、その変化を整理してみます。
2023年の安田尚憲――「長打もある中距離打者」だった頃
まずは、最後にシーズン本塁打を記録した2023年シーズンの成績から。
- 試合:122
- 打席:472
- 打率:.238
- 出塁率:.318
- 長打率:.361
- OPS:.678
- 本塁打:9本、二塁打:24本、打点:43
(NPB公式・Yahoo成績などより)
セイバーメトリクスを見ると、
- IsoP(純粋な長打力)=.123
- BABIP(インプレー打球の打率)=.284
- BB/K=0.54(四球割合>三振割合ではないが、バランスは悪くない)
と、「打率は高くないが、ある程度四球も選べて長打も打てる中距離打者」というプロファイルでした。パ・リーグ内でも、打率19位、本塁打23位、打点18位、出塁率16位と、中軸〜下位に置きやすい「そこそこ打てる三塁手」。
守備でも2022年にはDELTA社のフィールディング・アワード三塁手部門を受賞しており、守備指標でも高い評価を受けた選手です。
2024〜2025年:2年連続本塁打ゼロと「526打席ノーアーチ」
対して、ここ2年のレギュラーシーズンはご存じの通り本塁打ゼロ。
- 2024年:55試合 / 174打席 / 本塁打0
- 2025年:93試合 / 350打席 / 本塁打0
2023年最終戦・10月10日楽天戦での9号ソロ(則本昂大からの左翼ポール直撃弾)を最後に、翌2024年・2025年のレギュラーシーズンでは一発も出ず、合計526打席連続ノーアーチという状態で2025年シーズンを終えました。
もっとも、2024年のクライマックスシリーズでは日本ハムとのファーストステージ第2戦で先制ソロを放っており、「完全に長打力が失われた」というより、公式戦で“だけ”本塁打が出ていないというのが実情です。
2023 vs 2025 主要スタッツ比較
| 年度 | 試合 | 打席 | 本塁打 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | IsoP | BB% | K% |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 122 | 472 | 9 | .238 | .318 | .361 | .678 | .123 | 約10.4%(49四球) | 約20.1%(95三振) |
| 2025 | 93 | 350 | 0 | .243 | .303 | .290 | .593 | .047 | 約7.1%(25四球) | 約18.6%(65三振) |
(2023年はNPB・Baseballdata、2025年はNPB・パ・リーグ公式・note記事などを基に概算)
① 打率はほぼ変わらず、長打力だけが激減
打率は.238→.243とほぼ同水準ですが、
- 長打率:.361 → .290
- IsoP:.123 → .047
と、長打力が半分以下に落ちています。
二塁打も24本→15本と減少しており(打席数が3/4程度まで減っていることを考えると、それでも率的には落ちています)、とにかく「長打で運ぶ打者」ではなくなってしまったことが数字に表れています。
② 四球が減り、ややアグレッシブに
三振率は20.1%→18.6%と少し改善している一方で、四球率は10.4%→7.1%と大きく低下。BB/Kも0.54→0.42と悪化しています。
Baseballdataの「選球眼関連」で見ると、
- ボール球見極め率:2023年 77.65% → 2025年 73.91%
と、ボール球を振る割合が増えていることも分かります。
③ BABIP上昇で打率を維持
一方、BABIPは.284→.301と上昇しており、インプレーに飛んだ打球はむしろヒットになりやすくなっています。
つまり、
- 三振はやや減った
- ボール気味の球にも手を出している
- その代償として長打がなくなり、単打中心に
という形で、「コンタクト率は上がったが、長打力と四球が削られた」構図になっていると言えます。
打球の質とアプローチの変化
「ゴロを減らして角度をつけたい」→でも長打には結びつかず
2025年シーズン中のインタビューでは、安田本人が「最近ちょっとゴロが増えてきているので、あんまり良くない傾向。上沢さん(ソフトバンク)から打ったような打球を増やしたい」「ゴロだといい当たりでもアウトになるので、角度がつけばヒットになる確率が高い」と、打球角度を意識していることを語っています。
さらに8月の記事では、「ツーベースもどんどん増やしていけたら。その延長でホームランを打てたら」と、まずは二塁打→その先に本塁打という意識であることも明かしています。
しかし現実には、2025年シーズンの長打は二塁打15本のみで、三塁打0・本塁打0。中・長距離打者というより、「ちょっと長打のある中距離〜アベレージ寄り」のスタイルに収まってしまっているのが現状です。
フォームとポイントの変化? ファン・アナリストの見立て
2025年シーズンの「通信簿」的なブログでは、
- 真っすぐに差し込まれないように前で打ちに行き、レベルスイングを意識した結果、バットの加速する“懐”がなくなっている
- 引っ張ってもゴロ、逆方向は擦った弱い打球が増えた
- バレル率(強いフライやライナーの割合)が極端に低い
といった指摘もされています。 これはあくまで外部の分析ですが、
- コンタクトを優先して前でさばく
- 結果として打球速度・角度が十分に出ない
という、数字と整合する説明と言えるでしょう。
「勝負強さ」はむしろ向上? 得点圏での役割
長打こそ消えたものの、2025年の安田にはポジティブな面もあります。
- 満塁時:8打数4安打・10打点、打率.500
- 2025年8月の得点圏打率:.353(記事より)
実際、8月の西武戦で平良から9回満塁で同点打、翌日には再び9回に決勝タイムリーを放つなど、「勝負どころの単打と四球」でチームを救った場面も少なくありません。
note記事でも、長打率.290・OPS.593という低いトータル成績の中で、満塁時に4安打10打点を稼いだ勝負強さに触れられています。
スタッツ的には、
- 「長打型三塁手」から
- 「長打は少ないが、得点圏でそれなりに仕事をする中距離打者」
という形に、役割そのものが変化していると言えます。
守備面の変化とポジション価値
価値全体で見るとき、守備の変化も無視できません。
- 2022年:DELTAフィールディング・アワード三塁手部門受賞(守備データでも高評価)
- 2025年:三塁守備範囲評価 -9.9 と、対象三塁手の中でもワーストクラスという指摘も。
「長打の少ない三塁手」になっている上に、守備指標も悪化しているとなると、チーム内でのポジション争いは厳しくなります。だからこそ、本人が柳田に“弟子入り”してまで打撃の立て直しを図っている、と見ることもできます。
ホームランは戻ってくるのか? 今後の展望
悲観材料ばかりかというと、そうとも言い切れません。
- まだ26歳と若く、2020〜23年には毎年6〜9本塁打を打ってきた実績がある
- BABIPは上がっており、コンタクトそのものは悪くない
- 得点圏では存在感を示している
- ファームでは2025年もOPS.717・HR1本と、多少は長打も出ている
必要なのは、
- ゾーン内の球をもう一度「引き付けて強く振る」感覚を取り戻すこと
- ゴロを嫌うあまり、ただ上に振るのではなく、強いライナー〜中弾道の打球の再現性を上げること
- ボール球のスイングを少し減らし、四球を取り戻すこと(2023年レベルのBB%)
このあたりが噛み合えば、いきなり20本とはいかなくても、「.250 / 10本前後 / 出塁率.330台」くらいのラインには戻ってきても不思議ではありません。これはあくまでデータからの推測ですが、「長打ゼロの打者」ではなく、「たまたま2年続けて本塁打が出ていない中距離打者」と捉えるほうが、現在の安田像には近いでしょう。
おまけ:2023年と2025年の安田選手のフォームの比較
2025年ではHRがなかったので、4安打を打った時のフォームと比較します。2023年はHRを打った時のものです。投球モーション開始時でそろえています。あくまでも素人個人の見解です。骨格化には限界もあり、細かい条件なども違うので、真に受けず、こういうものもあるくらいに思ってくれると嬉しいです
見る限りだと、軸足の方の膝が少し伸びているのが少し気になるところです。投手や球種の違いはあるとは思いますが、投球開始から動作の始動が2025年の方が少し遅めのような気もします。
上からのビューだと、2023年は頭部の位置が膝の直上から動かないのに対して、2025年は頭部がインパクト前にホームベース側に偏ってしまっているような気がする。また初期位置の頭部の位置が2023年では両足の中間にあるのに対して、2025年では軸足側に最初から頭部があるのも特徴かもしれません。
正直このくらいの動作の違いがどれくらいクリティカルなのかは、想像てきないですね💦。上の埋め込み動画も参照してみてください。
参考:https://youtu.be/Xh4CN7XGIIk、https://youtu.be/V9sC9y7Brpg
まとめ
- 2023年の安田は、9本塁打・IsoP .123と「長打もある三塁手」だった
- 2024〜25年は2年連続本塁打0本で、通算526打席ノーアーチという極端な状態に
- 打率はほぼ横ばいだが、長打率とIsoPが大きく低下し、四球も減少
- 一方で得点圏・満塁では勝負強さを発揮し、「単打で点を取る打者」としての色も出てきている
- 守備指標の悪化もあって価値は下がっているが、年齢と過去の長打実績を考えれば、フォームとアプローチの修正次第で復活の余地は十分
「長打型三塁手」から「勝負強い中距離打者」へ――。
安田尚憲が再びスタンドインを量産するのか、それともこのままスタイルチェンジを完遂するのか。
2026年以降は、その分岐点となるシーズンになりそうです。



コメント