速い球や鋭い変化だけが「やばい」じゃない。むしろ“遅すぎる”がゆえに、投球の常識を壊してしまう球がある。
今回は、北海道日本ハムで語り継がれる多田野数人の代名詞「超スローボール(イーファス)」をスタッツ中心に振り返りつつ、現代版として伊藤大海が投げる「超絶スローカーブ」もデータで並べてみる。
まず結論:超スローボールは「球速差」と「軌道差」で打者の時間感覚を壊す
- 球速差:打者が準備している“想定レンジ”から外れる(遅すぎてスイングのタイミング設計が崩れる)
- 軌道差:高い放物線で「目線・奥行き感覚」もズレる(高さ×滞空時間で“見え方”が別競技になる)
- 心理効果:笑い・どよめき・間が生まれ、打席のテンポが途切れる
やばい列伝①:多田野数人の“超スローボール”
「48km/h」騒動:測定不能を“独自算出”した衝撃
超スローボールはスピードガンが反応しないレベルで、2008年6月18日の広島戦で投じた1球が、テレビ番組の検証で「48キロ」と“独自算出”された――というのが有名なエピソード。
投げ方の特徴:山なりの弧=滞空時間が武器
- ボールを「上に投げる」ような放物線で、捕手まで届く
- 直球・変化球の“同じ腕の振り”で勝負するのとは真逆の思想
- だからこそ、打者は「速度」だけでなく「見え方」まで狂う
運用が“ガチで少ない”のも効く:1試合に何球も投げない
この球の強さはレア度にもある。多田野の超スローボールは、多投して「慣れ」や「待ち」を作るのではなく、ここぞで1球が基本。
実際、ある年は公式戦で3球しか投げていないという報道もある。つまり、配球設計に組み込みつつ「情報を与えない」運用が成立していた。
スタッツで見る多田野:2008年の先発転向シーズンが主戦場
通算(NPB)スナップショット
- 登板:80
- 投球回:333.1
- 防御率:4.43
- 奪三振:187(K/9:5.05)
- 与四球:86(BB/9:2.32)
- 被本塁打:44(HR/9:1.19)
- WHIP(計算):1.26
| 年度 | 登板 | 勝-敗 | 投球回 | 防御率 | 奪三振 | 与四球 | 被本塁打 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2008 | 19 | 7-7 | 105.1 | 4.78 | 61 | 22 | 18 |
| 2009 | 13 | 5-5 | 70.1 | 5.76 | 46 | 27 | 10 |
| 2012 | 18 | 6-5 | 90.0 | 3.70 | 48 | 17 | 9 |
2008年(参考:計算指標)
- K/9:5.21 BB/9:1.88 HR/9:1.54
- WHIP(計算):1.22
“超スローボール”は成績を直接押し上げたのか?
結論から言うと、超スローボール単体で奪三振を量産する球ではない(そもそもストライクが取りにくい)。
ただしデータの見方を変えると、少ない球数で最大限の効果を狙う「セットアップ装置」として成立していた可能性が高い。
- 打者のタイミングを壊した直後に、直球・落ち球で勝負しやすくなる
- 「投げるかも」という情報だけで、打者の準備パターンが増える
- 強打者相手に“間”を作って、打席のテンポを切れる
やばい列伝②:伊藤大海の“超絶スローカーブ”(多田野版の現代アップデート)
推定52.6km/h、推定57km/h…「遅いのにストライク」が一番むずい
伊藤大海の超スローカーブが面白いのは、遅いだけではなく「狙ったところに入れてくる」点。
- 映像検証で52.6km/hと“計算された”超スローカーブ
- 別の試合でも推定57km/hと話題になった超絶スローカーブ
遅球は「ゾーンに入れる」ほど難易度が上がる。遅い球ほど重力・指先のズレ・リリース角のブレがそのまま着地点の誤差になるからだ。
伊藤は「多彩さ」×「出力」で、遅球を“混ぜても崩れない”のが強い
伊藤の土台は、先発としての投球回・奪三振・制球のハイレベルな両立。2025年はタイトル面でもエース級の結果を残した。
2025年スナップショット(NPB)
- 登板(先発):27(27)
- 投球回:196.2
- 防御率:2.52
- 勝利:14
- 奪三振:195(K/9:8.92)
- 与四球:29(BB/9:1.33)
- 被本塁打:15(HR/9:0.69)
- WHIP(計算):1.06
球種データで見る“伊藤の進化”:縦スライダーなど「武器の増やし方」が理にかなっている
パ・リーグの分析記事では、伊藤が複数球種を操り、縦スライダーを新たなレパートリーとして使い始めたこと、投球割合やゴロ率・被打率などのデータが示されている。
- 縦スライダー:平均球速134.0km/h
- 縦スライダー:ゴロ割合47.6%
- 縦スライダー:被打率.100
- 右打者相手の奪空振り率:26.2%
この“現代的なデータで裏付けられた武器追加”があるからこそ、超スローカーブという遊び心のある1球を混ぜても、投球全体がブレない。
比較表:多田野の超スローボール vs 伊藤の超絶スローカーブ
| 項目 | 多田野数人(超スローボール) | 伊藤大海(超絶スローカーブ) |
|---|---|---|
| 球速の目安 | 48km/h(独自算出として有名) | 52.6km/h(計算値)/推定57km/h(推定値) |
| 使い方 | 基本は「ここぞの1球」 | “毎年恒例”として見せ球+時にストライクも狙う |
| 役割イメージ | 投球のテンポを切る/タイミング破壊の装置 | 多球種×高出力の中に埋め込む“異物”として機能 |
| 2025年(参考) | — | 14勝・195奪三振・防御率2.52・196.2回 |
まとめ:遅球は“ネタ枠”じゃなく、トップ投手ほど難しい球
- 多田野の超スローボールは「滞空時間」と「レア度」で打席の時間感覚を壊した
- 伊藤の超絶スローカーブは「多球種×制球×出力」の上に乗った“現代型”
- どちらも共通するのは、1球で空気と情報を変えること
参考(一次情報・データ)
- NPB.jp 日本野球機構:個人年度別成績(多田野数人/伊藤大海)
- 日刊スポーツ:多田野の超遅球(48キロ算出の報道)
- パ・リーグ.com:伊藤大海の球種・投球割合などの分析記事/超スローカーブ検証動画
- NPB.jp:2025年 パ・リーグ表彰(伊藤大海の投手タイトル)



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