『ドラベース ドラえもん超野球外伝』に登場するシロえもんの魔球、
WWW(ワンダーワイドホワイト)ボール。 作中では「線ではなく点でしか打てない」レベルのエグい変化球として描かれています。
この記事では
- そもそもWWWボールとはどんな魔球なのか
- 物理的にリアル野球で再現できるのか
- 現在のプロ野球・MLBで“いちばん近い”投球をしている投手は誰か
この3点を、データとピッチング理論を絡めて考えてみます。
WWWボールのおさらい:W → WW → WWW の進化系
Wボール
シロえもんの代名詞となる魔球がW(ホワイト)ボール。 ボールがアルファベットの「W」のように上下にジグザグ変化しながらミットに収まる、という完全にフィクション寄りの変化球です。
WWボール(ワイドホワイトボール)
Wボールをアンダー〜サイドスローで投げることで、
上下よりも左右方向に大きくジグザグ変化するようにした進化版。 ただし多用すると肩を壊すというデメリット付き。
WWWボール(ワンダーワイドホワイトボール)
そして本題のWWWボール。 マウンドからジャンプしながらWボールを投げることで、
上下方向の変化をさらに大きくした魔球とされています。
特徴をまとめると、
- 打者から見ると一度浮き上がってから急激に落ちるような軌道
- 縦変化が大きすぎて、ボールの「線」ではなく「点」を打たないと当たらない
- ジャンプしながら投げるという、現実ではほぼ見ないフォーム
まさに「漫画だから許される魔球」感満載ですが、どこまで現実に近づけられるのでしょうか。
物理的には無理? ボールの軌道とルールから考える
1)軌道:本物のボールは“W”の字には曲がらない
現実の野球ボールは、
- 重力
- 空気抵抗
- 回転によるマグヌス力
といった力の合成で飛んでいきます。力が途中で急に切り替わることはないので、 漫画のように「途中でカクっと折れ曲がる」「一度止まってからまた動き出す」軌道は基本的に不可能です。
ただし、近年研究が進んでいるシームシフト・ウェイク(Seam Shifted Wake)と呼ばれる現象により、
ボールの縫い目の向き次第で「投げた瞬間に予測される軌道」と「実際の軌道」がズレることは分かってきました。
とはいえ、それでも軌道はあくまで“滑らかなカーブ”であり、 ドラベースのような字のごとく「W」を描く軌道を空中で実現するのはほぼ不可能です。
2)フォーム:マウンドからジャンプ投法はルール的にアウト
日本の高校野球規則を含む公認野球規則では、 投手はワインドアップ・セットいずれの場合も軸足の全部または一部を投手板に触れて置かなければならないと定められています。
現実の投手も多少ジャンプ気味に踏み出すことはありますが、 WWWボールのように「マウンドから大きく飛び上がって」投げてしまうと、 投手板を離れた状態からの投球としてボークや違反投球を取られる可能性が高いでしょう。
つまり、フォームの時点で公式戦ではほぼNGです。
それでも“要素分解”すると、近いボールは存在する
ここからは、WWWボールを次の3つの要素に分解して考えてみます。
- とにかく縦の落差が大きい
- 打者の予測と大きくズレる軌道
- スピード差でタイミングを外す
この3つを現実の投手に当てはめると、「かなりWWWっぽい」投球はいくつか存在します。
NPB&MLBで「一番WWWに近い」投球たち
① 千賀滉大の「お化けフォーク」=落差の大きさがWWW級
まず真っ先に名前が挙がるのが、メッツ・千賀滉大のゴーストフォーク(お化けフォーク)。 Statcastのデータでは、最大で42インチ(約107cm)以上の落差を記録しており、
「1メートル以上落ちるフォーク」として米メディアでも紹介されています。
さらに解析によると、
- 53フィート(約16m)地点まではストレートとほぼ同じ軌道で進み
- 最後の約2mで一気にストンと落ちる
という“消えるボール”になっており、空振り率もMLBトップクラスです。
「途中まで真っすぐ → 急に下に抜ける」という意味では、 WWWボールの「点でしか打てない」イメージにかなり近いと言えます。
② 山本由伸の異次元12–6カーブ=縦の山なりと緩急
ドジャース・山本由伸のカーブも、縦の落差という点では怪物級です。 MLB公式データによると、平均で約63インチ(約160cm)の落差を記録し、 同タイプのカーブと比べても平均より約20cm多く落ちる「ヨーヨーカーブ」と評されています。
最速156km/hのストレートと、120km/h台のカーブとの30km/h近い球速差もあり、 打者からすると
「高めに来たと思ったら、そのまま縦にストン」
という体感になるため、これもWWWボールのイメージに近い要素を持っています。
③ Devin Williamsの「Airbender」=予測不能な横+縦の変化
MLBでは、ヤンキースのクローザー・Devin Williamsのチェンジアップ、通称「Airbender」も外せません。 この球はチェンジアップでありながら、20インチ超の腕側への変化と40インチ超の縦変化を兼ね備えた“怪物ボール”として知られています。
高回転のチェンジアップに、シームシフト・ウェイクの効果も乗っていると考えられており、 打者からすると「スライダーとチェンジアップとスクリューボールの中間」のような、読めない軌道になります。
WWWボールほど極端ではないものの、
「教科書的な変化球の動きからズレる」という意味では、かなり“魔球寄り”です。
理論上「WWWボールっぽい球」を目指すなら?
実際に投げられる範囲で、WWWボールのイメージに近づけるなら、次のような設計が考えられます。
- 高めゾーンから大きく落ちる縦変化
┗ 山本由伸タイプの12–6カーブ or 千賀のフォークのような、1m級の縦落ち - ストレートとほぼ同じトンネルから急変化
┗ 千賀のゴーストフォークや、SSW系チェンジアップの「最後だけ動く」軌道 - 球速差で時間感覚を狂わせる
┗ 150km/h前後のストレートと、120〜130km/h台のカーブ/チェンジアップの組み合わせ
これらをすべて高レベルで兼ね備えた投手がいれば、 「現代版ワンダーワイドホワイトボール」と呼んでもいいかもしれません。
結論:本物のWWWボールは無理、でも“限りなくそれっぽい魔球”は存在する
- 軌道そのもの(完全なW字)やジャンプ投法は、物理的・ルール的に再現不可能
- ただし、縦1m級の落差や終盤だけ急変する軌道は、千賀・山本・Williamsらがすでに実現している
- シームシフト・ウェイクなどの研究が進めば、「打者の予測とズレる魔球」は今後さらに増える可能性が高い
つまり、シロえもんのWWWボールそのものは投げられないけれど、 「打者からはそう見えてしまうレベルの魔球」は、もう現実世界にかなり近づいている―― そう考えると、ドラベースの世界もあながち夢物語だけではないのかもしれません。



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