「トミー・ジョン(TJ)手術をすると球速が上がる」――野球界では定番の“神話”ですが、実際はそんな単純な話ではありません。米スポーツ医学研究機関(ASMI)は、「手術で投げる球が速くなる」という誤解は正しくないと明確に整理しつつ、復帰後の改善が起きる場合も「手術そのもの」よりリハビリ・筋力強化・再学習の影響が大きい、と説明しています。[1]
そして中日・草加勝も、TJ手術明けの初期には最速151km/hで鮮烈なプロ初登板を飾った一方、シーズン終盤の2軍登板では被弾を悔やむコメントも出ており、「戻った=完成」ではないことを感じさせます。[2][3]
この記事では、
- TJ復帰後に球速が「上がる/上がらない」は過去どれくらいなのか?
- データ上、実際はどういう傾向なのか?
- なぜ上がる人と上がらない人が分かれるのか?
- 草加勝の“いま”をどう見ればいいのか?
を、研究と事例で整理します。
まず草加勝の現在地:TJ明けで最速151km/h→終盤は「まだまだ」と悔やむ
草加勝は、トミー・ジョン手術明けのプロ初登板(ファーム)で最速151km/h、1回を三者連続三振という派手なデビューが報じられました。[2]
一方で、2025年シーズン終盤のウエスタン登板では被弾を含む内容に対して、試合後に「2軍の選手に(2発)打たれているようじゃ、1軍はまだまだ」と悔しさを語ったと伝えられています。[3]
ここから見えるのは、TJ復帰の評価軸は「球速が出たか」だけでなく、
- 球質(回転・伸び・変化量)
- 制球と再現性
- 連投・登板間隔での安定
- 打者の“2巡目以降”でも通るか
まで含めて“戻る”必要がある、という現実です。
結論:研究的には「平均で見ると球速は“ほぼ変わらない〜微減”」が主流
「上がる投手もいる」のは事実ですが、研究の結論を平均でまとめると、復帰後の球速は大きく上がるわけではなく、むしろ僅かに落ちる(またはほぼ維持)が多いです。
データ例①:UCL再建(TJ)前後で平均球速はわずかに低下(0.6mph程度)
MLB投手を対象にした研究(Cureus/PMC掲載)では、UCL再建前後の平均で、
- 速球:93.65 → 93.07 mph(P=0.26)
- オフスピード:86.05 → 85.82 mph
- 変化球:82.39 → 82.11 mph
と、変化はいずれも1%未満の小さな差で、「著増」とは言いにくい内容でした。[4]
データ例②:別研究でも「速球は有意に低下(91.3→90.6mph)」
さらに別のMLB研究(2014年)では、速球平均が91.3 → 90.6 mphへ有意に低下したと報告され、年齢が高い層ほど落ち幅が大きい傾向も示されています。[5]
要するに:「TJ=球速アップが普通」というより、平均では維持〜微減。ここが現実のベースラインです。
「上がる選手/上がらない選手」は“どれくらい”?──実は「人数比」を断言できる公的データは多くない
ここが少し難しいポイントです。多くの学術研究は「平均値」「群間差」「層別(上位群は落ちやすい等)」を示しますが、
- 復帰投手のうち何%が“球速上昇”したか
- 何%が“低下”したか
という人数比の明確な一覧を、無料で追える形で提示していない研究も多いです(元データが必要)。そのため本記事では、断言できる“人数比”の代わりに、再現性の高い「傾向」として整理します。
- 平均では「維持〜微減」(大幅アップが一般的とは言えない)[4][5]
- ASMIは、復帰後改善が見える場合でも「手術で能力が上がる」という誤解を否定し、背景にリハビリと再構築があると説明[1]
- ASMIはさらに、10〜20%は以前のレベルに戻れないとも述べており、一定数は「戻らない側」に振れる[1]
なぜ差が出る?TJ明けに球速が「上がる」パターン/「上がらない」パターン
球速が上がりやすい(ように見える)パターン
- 手術前に痛みで出力が落ちていた(“本来の出力”に戻っただけでも上がったように見える)
- リハビリ期間で下半身・体幹・肩甲帯の筋力を作り直し、フォーム効率が上がる
- 復帰後の配球や役割(短いイニング)で出力を出しやすい環境になる
実例としては、復帰戦で「球速が戻った/改善した」旨が報じられるケースがあります(例:復帰登板で平均球速が上がったと伝える報道)。[6]
球速が上がらない/落ちやすいパターン
- 手術前から球速が高い“上位層”ほど、復帰後に落ちやすい(層別分析で上位群の低下が示唆)[4]
- 復帰直後は「球速より制球・再現性」に寄せて投げ、意図的に抑えることがある
- メカニクスが変わり、球速よりも「負担軽減」を優先する(例:球速が以前より落ちたという分析)[7]
草加勝はどちら側?いま大事なのは「球速」より“再現性と出力の持続”
草加勝は、TJ明けで最速151km/hを出せた時点で「出力ゼロ」ではありません。[2] ただし、終盤に被弾を悔やみ「1軍はまだまだ」と語ったように、[3] ここから先は
- 同じ出力を複数イニングで維持できるか
- 球速以外(回転・変化・制球)で打者の2巡目に耐えられるか
- 登板間隔を詰めても崩れない耐久性が戻るか
が勝負になります。TJ復帰は「戻った瞬間がピーク」ではなく、復帰後にもう一段階上げていく“第二リハビリ期”がある――この理解が一番しっくりきます。
まとめ:TJ明けは「球速アップが普通」ではない。平均は維持〜微減、上がるかどうかは“条件次第”
- 研究では、UCL再建前後で平均球速はほぼ維持〜微減(例:93.65→93.07mph)[4]
- 別研究では速球が有意に低下した報告もある(91.3→90.6mph)[5]
- ASMIは「手術で球が速くなる」という誤解を否定し、改善があるならリハビリ等の結果と説明。さらに10〜20%は以前のレベルに戻れないとも述べる[1]
- 草加勝は最速151km/hの鮮烈な復帰登板がある一方、終盤は内容に悔しさも。ここからは球速より“安定と持続”が焦点[2][3]
参考・引用元
- American Sports Medicine Institute(ASMI): Position Statement(TJ後に投げる球が速くなるという誤解、10〜20%が元のレベルに戻れない等)
- ドラ要素@のもとけ(中日スポーツ/DAZN投稿引用): 草加勝がTJ明け初登板で最速151km/h・三者連続三振(2025/4/30)
- ドラ要素@のもとけ(中日スポーツ引用): 草加勝「2軍の選手に打たれているようじゃ…」発言(2025/9/24)
- Akinleye ほか(2024, Cureus/PMC): UCL再建前後の球速変化(平均で1%未満、速球93.65→93.07mphなど)
- Lansdown ほか(2014, PDF/PMC): UCL再建後に速球平均が有意に低下(91.3→90.6mph等)
- Houston Chronicle: TJ後の復帰登板で球速改善が言及された例(Cristian Javier、2025/8頃の報道)
- スポーツナビコラム: 復帰後に球速が落ちた例の分析(deGromの事例など)


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