2025年シーズン、野球クラスタとSNSをざわつかせたフレーズがあります。
「父のキゲンは、巨人が決めている。」
通称「巨人父」です。
読売ジャイアンツ公式X(旧Twitter)が父の日に投稿した1枚の画像から始まり、
・広告としては炎上
・ネットでは改変画像が乱舞しミーム化
・“昭和型オヤジ”や毒親をめぐる議論にも発展
……と、単なるキャッチコピーを超えた社会現象になりました。
この記事では、「父の機嫌は巨人が決める」騒動の経緯と、なぜここまでミーム化したのかを整理してみます。
きっかけは2025年父の日の巨人公式ポスト
発端は2025年6月15日、父の日。
読売ジャイアンツ公式Xアカウントが、「#父とジャイアンツ」というハッシュタグ企画で、父と巨人の思い出を募る投稿を行いました。
問題になった画像の内容はこんな感じです。
- リビングで巨人戦をテレビ観戦している中年男性(お父さん)のイラスト
- その上に大きく「父のキゲンは、巨人が決めている。」のコピー
- 本文は「今日は、父の日。あなたのお父さんとジャイアンツの思い出はありますか。」
球団側としては、
「巨人好きなお父さんと野球を通じた温かい思い出」をシェアしてもらう、
ノスタルジックな父の日キャンペーンのつもりだったとみられます。
しかし、この一文が想像以上に強烈でした。
なぜ炎上した?──“昭和型オヤジ”と毒親の記憶
投稿直後から、Xの返信欄や引用ポストには、
ポジティブなエピソードではなくネガティブな思い出が大量に寄せられます。
- 「巨人が負けると父に怒鳴られたり、物に当たり散らされた」
- 「機嫌が悪くなると家庭の空気が地獄だった」
- 「巨人戦のせいで、見たい番組をずっと見せてもらえなかった」
女性向けメディアは、このコピーが“毒親”の記憶を呼び覚ましたと分析。 「自分の機嫌を自分でコントロールできず、家族に八つ当たりする親」を肯定しているように見える、という批判も多く出ました。
背景には、昭和〜平成期の「巨人戦=テレビの王様」だった時代があります。 一家にテレビが1台しかない頃、地方まで含め多くの家庭でゴールデンタイムは巨人戦が占拠され、子どもはアニメやバラエティを諦めざるを得なかった──という記憶です。
この記事で引用されているように、
巨人が負けると機嫌が悪くなり、周りに当たり散らす父親に怯えていた。 それが野球や巨人を嫌いになった原点だ。
という人も少なくありませんでした。
令和の価値観から見ると、 「父の機嫌がチームの勝敗に左右される」という状況自体が問題とされやすい。 そこに「父の日」「巨人公式」のお墨付きが乗ったことで、炎上の火力が一気に高まった、という構図です。
交流戦最下位クラスの低迷が“燃料”に
さらにタイミングの悪さも重なりました。 なんJ用語集によると、このポストが出た2025年交流戦時点で、巨人は3勝7敗1分で交流戦最下位という深刻な不振。
結果として、
- 巨人が打たれるたびに画像が貼られる
- スコア速報スレに「父のキゲンは、●●が決めている」と改変コラが投下される
- 巨人ファンの蔑称として「お父さん」が追加される
など、「負ける→父が不機嫌→家庭が凍る」という連想ゲームが、完全にネタとして回り始めます。
どうミーム化した?──「巨人父」から他球団バージョンまで
① なんJ・SNSでの定番コラ素材に
「父のキゲンは、巨人が決めている」の画像は、 5chなんJスレやX界隈で定番コラ素材になりました。
- スコアボードや打者の名前を差し替える
- 巨人がピンチになると実況スレに改変画像が貼られる
- 「人格教育球団ジャイアンツにドン引きする愛好家たちの反応集」と題したまとめ動画まで登場
このあたりから「巨人父」という呼び名も広まり、 「野球の勝敗で子どもに当たる父親」という象徴キャラとして扱われるようになりました。
② 他球団バージョンも続々
なんJ用語集によれば、
・日本ハム版
・阪神版(「巨人が負けると機嫌が良くなる阪神ファン父」)
など、他球団に差し替えたコラも多数作られています。
つまり、
「贔屓球団の勝敗で家族の空気が決まるお父さん」
というテンプレを共有する、
“全国どこにでもいた昭和〜平成オヤジ”のシンボルとして、 「父の機嫌は○○が決める」というフォーマット自体がミーム化した、というわけです。
この現象が映し出したもの:感情コントロールと“家父長制”のほころび
この騒動は単なる炎上ネタというより、 「家庭の空気を父親の機嫌に委ねる」ことへの違和感が一気に噴き出した出来事でもありました。
① 「機嫌は自分で取る」時代とのギャップ
現代のSNSでは、
「機嫌は自分で取るもの」「家族にぶつけるのはアウト」という価値観がかなり共有されています。 そこに、「父のキゲンは、巨人が決めている」というコピーが“無邪気なほほえましさ”として出てきたこと自体が、時代錯誤と受け取られました。
② “巨人戦の権力”があった時代への反省
SPA!やExciteのコラムでは、 90〜00年代に「巨人戦が家庭内で特権的な番組だった」ことに対する反省も語られています。
- 父親の巨人ファンぶり=家族のチャンネル権の奪取
- 負けたら八つ当たり、勝ったら機嫌がいいという理不尽さ
こうした記憶を持つ人にとって、 あのイラストは「懐かしい思い出」ではなく「未消化のモヤモヤ」を呼び起こすトリガーだった、という指摘です。
結局、「父の機嫌は巨人が決める」とは何だったのか
まとめると、このミーム化現象は──
- 巨人公式の父の日広告として生まれたフレーズが
- 昭和〜平成の「巨人戦オヤジ」への複雑な記憶を刺激し
- 毒親・DV・チャンネル権問題と結びついて炎上し
- やがて「巨人父」というキャラ化を経て、ネタ画像・改変コラとして定着した
という流れだったと言えます。
言葉だけ見ればキャッチーで、 「うちの父もそうだったわ(笑)」と笑い飛ばせる人もいます。 一方で、同じ経験を「笑えない記憶」として抱えてきた人も多く、 そのギャップが可視化されたのが「父の機嫌は巨人が決める」騒動でした。
今後も、このフレーズは
- 巨人が大量失点したときのネタ画像
- 「推しの勝敗で情緒が乱高下するオタク」への自虐ミーム
など、さまざまな形で引用されていくはずです。
ただ、その裏側には、 「家族の空気を誰かの不機嫌に支配させないほうがいい」 という、令和的な感情の共有もある── そういう意味で、単なる野球ネタを超えた“時代の写し鏡”になったコピーだったのかもしれません。
参考文献・出典
- ITmedia NEWS「『父のキゲンは、巨人が決めている』──読売ジャイアンツ公式Xの“父の日投稿”が不評 『いい思い出ない』」
- 新・なんJ用語集Wiki「父のキゲンは、巨人が決めている。」
- おたくま経済新聞「読売ジャイアンツ公式Xが父の日企画でまさかの炎上 思い出投稿が“怨嗟”の場に」
- 女子SPA!「『父のキゲンは巨人が決めている』“毒親”広告が大炎上」
- Exciteニュース「巨人が負けると不機嫌になる“昭和型オヤジ”は今も存在するのか!?」
- ガジェット通信「読売巨人軍の公式『父のキゲンは、巨人が決めている。#父とジャイアンツ』父の日の投稿に批判殺到」
- 日刊SPA!「『父のキゲンは、巨人が決めている』読売ジャイアンツの“父の日ツイート”が炎上した本当の理由」
- note「『父のキゲンは、巨人が決めている』騒動について」
- Slangverse「『巨人父』元ネタはどこから? “父のキゲンは、巨人が決めている”の真相を解説!」



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