タッチの上杉達也はどうやって甲子園優勝まで行ったのか?――速球だけで全国制覇は現実的にあり得るのか考えてみる

野球オカルト

あだち充『タッチ』の主人公・上杉達也(たっちゃん)は、「ほぼストレート一本で甲子園優勝」という、とんでもない設定のエースです。
フィクションなのは大前提としても、「実際の高校野球でこれはあり得るの?」という疑問は一度は考えたくなりますよね。

この記事では、

  • 作中で達也がどうやって甲子園優勝までたどり着いたのか
  • 上杉達也という投手のスペックと投球スタイル
  • 現実の高校野球で「ほぼ速球だけ」で甲子園優勝できるのか

を、原作設定と実際の高校野球のデータ・傾向から考えてみます。


1. 上杉達也はどうやって「甲子園優勝」までたどり着いたのか

① 須見工との決勝で甲子園切符をつかむ

まず、原作で描かれるのは「甲子園出場を決めるまで」です。
明青学園は、神奈川大会決勝で強豪・須見工業と対戦。須見工には強打者・新田明男がいて、「ここを倒せないと甲子園はない」というラスボス的な存在でした。

試合は接戦の末、延長10回へ。

  • 10回表:達也のホームスチールで明青が1点勝ち越し
  • 10回裏:2アウト二塁、新田とのラスト勝負
  • 前の打席で新田にホームランを打たれているにもかかわらず、敬遠せず真っ向勝負
  • 最後は渾身のストレートで新田を三振に仕留め、明青が甲子園出場を決める

このシーンで、達也は「弟・和也の代わり」ではなく、自分自身の投球で勝負することを選びます。
精神的な意味でも、この須見工戦が達也=エース完成の瞬間といえます。

② 原作では甲子園の試合は一切描かれない

実は『タッチ』本編では、明青が甲子園で戦うシーンは一度も描かれません
最終話はすでに甲子園が終わった秋の話で、ラストの1コマに「第68回 全国高校野球選手権 優勝」の優勝皿が映るだけ。ここで初めて、読者は「達也たちは全国制覇していた」と知らされます。

つまり、

  • 甲子園での対戦校やスコア
  • 苦戦した試合、投球内容

といった具体的な試合描写はすべて読者の想像に委ねられているわけです。

のちに『MIX』で、「明青vs○○の甲子園決勝をテレビで見る」形で、決勝のVTRとして達也の投球シーンが少しだけ描かれます。いわゆる“幻の決勝戦”ですね。

③ 設定としては「初出場で初優勝」

設定上は、明青学園は達也の代で甲子園初出場にして初優勝。その後はしばらく甲子園から遠ざかり、『MIX』時点では「達也の代が最初で最後の出場」という扱いになっています。

さらに、キャラクター記事では

  • 甲子園直前にはスキャンダル報道や開会式すっぽかしなど、ゴタゴタもありつつ
  • エースとして明青を全国制覇に導いた
  • アニメ特番『Miss Lonely Yesterday』では、甲子園で152km/hを記録したという設定

なども補足されています。


2. 上杉達也という投手の「スペック」を整理する

① ストレートが武器のパワーピッチャー

各種解説記事・考察をまとめると、達也の投手としての特徴はだいたい次のように整理できます。

  • 最高球速:150km/h前後(アニメでは「甲子園で152km/h」)
  • 球種:ストレートが絶対的エース。変化球はカーブとチェンジアップ程度
  • 制球:弟の和也より荒いが、勝負どころのコントロールは良い
  • スタミナ:Aクラス。延長戦でも球威が落ちない
  • メンタル:土壇場で本領を発揮する「勝負強さ」

とくにストレートについては、「キャッチャー松平がミットを構えるのを怖がるレベル」、「ライバルたちが口を揃えて『化け物』と言う」など、球威の描写が徹底しています。

② 1980年代という“時代補正”をかけると怪物度がさらに上がる

『タッチ』の連載は1980年代前半〜中盤。
当時はプロですら、150km/h常時という投手はほぼいない時代でした。

現代の高校野球では、150km/h台を投げる投手は珍しくなく、センバツや夏の甲子園でも150中盤を計測する投手が出てきていますが、
「150km/h出せる=無双」ではなく、球速に見合う制球や変化球がなければ普通に打たれる、というのが最近の傾向です。

しかし、

  • 1980年代に152km/h級の速球を投げる高校生左腕
  • それをほぼストレート主体で投げ続ける

という設定は、当時の野球環境から見れば「規格外の怪物」なのは間違いありません。

③ 「ストレートだけ」ではなく、最低限の変化球と駆け引きはある

作中や各種まとめでは「ほぼストレート一本」と言われますが、実際には、

  • カーブ
  • チェンジアップ気味の緩いボール

など、緩急をつけるボールはちゃんと投げています

また、須見工戦では大熊・新田にホームランを打たれており、「ストレート一本勝負のリスク」もきちんと描かれています。 つまり、

  • 配球の軸はストレート
  • 要所で緩い球を混ぜる
  • コースと高低を使い分ける

という意味で、「ストレート<だけ>で勝った」わけではない、というのもポイントです。


3. 現実の高校野球で、速球主体だけで甲子園優勝は可能か?

ここからは、フィクションと割り切ったうえで、現実の甲子園に当てはめた場合の“あり得る/あり得ない”ラインを考えてみます。

① 現実のエースは「球速+制球+変化球」の総合力勝負

近年の甲子園を見ていると、たとえ150km/h級の剛腕であっても、

  • スライダーやカット、ツーシームなど横の変化
  • カーブやチェンジアップなどの緩急
  • 低めへのコントロール

を組み合わせて初めて「エースとして試合を作れる」投手がほとんどです。

実際、2017年センバツの大阪桐蔭・履正社のエースは、平均130km台前半のストレートをコースに投げ分け、変化球と組み合わせて打者を抑えていました。
記事でも「球速より制球力」「130キロ台でも全国レベルの打線を封じることができる」と解説されています。

また、150km/h台の剛腕が注目された最近のセンバツでも、
150キロを出せるだけでは勝てない。配球や投球術がないと打たれる」という指摘がなされています。

② 「ストレートだけで押し続けたエース」は、結局どこかで変化球に頼る

現実の例として、春夏連覇を達成した興南・島袋洋奨は「狙われても直球で押し続けるスタイル」で知られていましたが、
夏の決勝戦では配球を変化球中心に切り替えて勝利したとされています。

つまり、

  • トーナメントを勝ち上がる過程では直球主体で押し通せることもある
  • しかし決勝や上位ラウンドでは、さすがに直球だけでは限界がきて、変化球を増やさざるを得ない

というのが、リアルな甲子園の姿です。

③ 「上杉達也クラス」が現実にいれば、どこまで行ける?

では、もし現実に「上杉達也クラス」の投手がいたらどうでしょうか。

  • 左腕で152km/hのストレート
  • カーブとチェンジアップで最低限の緩急
  • スタミナAクラスで、連投もこなす
  • バックに堅い守備とそこそこ打てる打線

この条件なら、

  • 1980年代レベルの高校野球なら「ほぼストレート主体で優勝」もギリギリあり得る
  • 現代(2020年代)の甲子園だと、優勝まで行くには変化球比率を増やしたり、配球の工夫は必須

という感覚に近いです。

実際、現在の甲子園には151km/h前後の速球派エースが普通に存在しますが、 OB投手の山本昌氏も「力で押すだけでなく、時には緩いボールを使うテクニックが必要」と解説しています。 速さだけでねじ伏せるのは、プロでも難しい世界です。

④ 現実的に必要になる“+α”

仮に「達也タイプ」がリアルにいたとして、甲子園優勝を狙うなら、

  • ストレートの質(球速だけでなく、回転数・伸び・球持ちの長さ)
  • カーブ・チェンジアップの精度(ストライク先行で入れること)
  • 内外角・高低の使い分け(真ん中付近を減らす)
  • チーム全体の守備・打撃レベル(エラーで崩れない、1点試合をものにできる)
  • 監督の投手運用(連投過多になりすぎない、2番手投手の用意)

といった“+α”が必須になってきます。

『タッチ』世界の上杉達也は、このあたりの現実的な壁を「ご都合主義で全部すっ飛ばした」キャラではなく
ある程度はフィクション寄りに盛りつつも、当時の野球レベルを踏まえれば
「あり得なくはないライン」を絶妙に狙っている、とも言えます。


4. まとめ:タッチの達也は「時代を加味すればギリ現実にいそうな怪物」

  • 『タッチ』本編では、明青の甲子園での試合は描かれず、最終話の優勝皿だけで「全国制覇」が示される
  • 上杉達也は、152km/h級のストレートを武器に、ほぼ速球主体で勝負するパワー左腕という設定。変化球はカーブとチェンジアップ程度。
  • 1980年代という時代背景を考えると、高校生で150km/h超えは完全に怪物クラスで、ストレート中心で全国制覇しても「まあフィクションとしてはギリ許せる」レベル。
  • 一方、現代の甲子園では、150km/hクラスでも変化球と制球がなければ普通に打たれるのが現実で、「ストレートだけで優勝」はかなり非現実的。
  • なので、現実に達也タイプがいたとすれば、「ストレートが軸だけど、緩急とコントロールも兼ね備えたエース」として、優勝候補の一角には十分なり得る、くらいのイメージが妥当です。

結論:
タッチの上杉達也は、完全なファンタジーではなく、
「時代補正をかければ、ギリ現実にいそうなレベルまで盛った怪物エース」
現代の甲子園で同じことをやろうとしたら、さすがに変化球と投球術がもう一段階必要――そんなラインだと考えると、物語としても、野球好きの妄想としても、ちょうど楽しい位置にいるキャラクターだと言えそうです。


参考文献・出典

  • 『タッチ』作品・最終回の優勝皿に関する解説記事
  • 『タッチ』および『MIX』における明青学園・上杉達也の設定(甲子園初出場初優勝、幻の決勝シーンなど)
  • 上杉達也のキャラクター解説・球速152km/h設定に関する記事
  • 高校野球における球速・エース像の変化、130km台でも抑えるエースのコラム
  • 150km/h台の高校生投手に関するナンバーWeb記事(球速だけでは勝てないという指摘)
  • 興南・島袋洋奨の春夏連覇と直球主体→変化球中心への切り替えに関するコラム

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