野球界で「ドライブライン行った」「ドライブライン式で球速上がった」「ピッチデザインした」みたいな話を聞く機会が増えた。
ここで言うドライブライン(Driveline)は、ざっくり言えば“投球をデータとバイオメカ(動作解析)で分解し、球速・球質・怪我リスクをまとめて最適化するトレーニングラボ”だ。
この記事では、①ドライブラインが何者か、②何が特徴か(メニューではなく思想と仕組み)、③日本で同じ発想を実現できる場所はあるのか、をデータ寄りに整理する。
結論:ドライブラインの正体は「計測→仮説→介入→再計測」のループを回す“野球R&D”
- 目的:球速アップ/球種の“形”改善(変化量・回転軸など)/制球(再現性)/障害予防
- やり方:投球を“感覚”で語るのではなく、数値(球・身体・床反力)と映像で因果を探す
- 武器:モーションキャプチャ、球質計測(TrackMan/Rapsodo等)、ハイスピード映像、フォースプレート、独自ツール(プライオボールなど)
要するに「練習メニューが特殊」というより、練習を“実験”にしているのが強み。
ドライブラインのトレーニングは何が違う?(特徴を6つに分解)
① まず“測る”:投球は球速だけじゃない(回転・変化・リリース)
従来の「球速◯km/h出ました」で終わらず、以下をセットで追う。
| カテゴリ | よく見る指標例 | 何に効くか |
|---|---|---|
| 球質(ボール) | 回転数・回転軸、変化量、縦横のブレイク、球速、回転効率 | “空振りが取れる形”の設計(ピッチデザイン) |
| 身体(フォーム) | 関節角度、腕の回旋、骨盤・胸郭の回転、リリース位置の再現性 | 球速・制球の“再現性”と、怪我リスクの管理 |
| 力(地面) | フォースプレートで床反力・踏み込みのタイミング | 下半身主導・出力の伝達効率 |
② バイオメカ(モーションキャプチャ)が“主役”
ドライブラインは「ウェイトボールの施設」と誤解されがちだが、実際は動作解析ラボ(モーションキャプチャ)が中核だと語られることが多い。
身体にマーカーを付けたり、複数カメラで3D化して、フォームのどこでエネルギーが途切れているか、肘肩ストレスがどう増えるか、を“数値として”見にいく。
③ ピッチデザイン:変化球は「偶然」ではなく「設計」する
近年の投球開発は、狙った変化(shape)に向けて、握り・リリース・回転軸を試行錯誤し、計測で当たりを探す流れが主流。
ドライブラインも、Rapsodo/TrackMan等の技術が普及したことで、球種設計が“職人芸”から“実験”へ移った、という立場で情報発信している。
④ プライオボール(重さの違うボール)=万能薬ではなく「負荷設計ツール」
ドライブラインの代名詞の一つがプライオボール(ウェイトボール)。ただし扱い方が肝。
研究では、一定期間のウェイト実装トレで球速が上がる傾向が報告される一方、関節にかかる負荷や動作の変化も同時に起こりうる。
だから現場では「いきなり重い球を投げる」ではなく、段階的な負荷・投球量管理・フォーム評価とセットで運用される。
⑤ S&C(筋力・パワー)を“投球に接続”する
ウエイトで強くなるだけでは球速は伸びない。
ドライブライン系の思想は、強化した出力を、投球動作で再現できる形に落とし込むところまでを同じ工程で扱う。
⑥ リモートでも「データを持ち帰る」発想
最近は現地に通えない選手向けに、アプリやツールでデータを集め、遠隔でプログラムを回す仕組みも用意されている。
「行ったら終わり」ではなく、データ収集を前提に“日常の練習”へ落とし込むのが現代型。
ドライブラインの“成果”はどう語られる?(日本選手の例)
日本でも、NPBの投手がドライブラインでトレーニングした話は複数報じられている。
また、米国の施設でトレーニングしたことが広く知られた日本人選手の例として、大谷翔平のオフの取り組みが紹介されることもある。
ただし重要なのは、成果を「ドライブラインに行ったから伸びた」と単純化しないこと。
現実には、(1)元の課題設定 →(2)介入(トレ・球種設計)→(3)投球量管理 →(4)シーズンで再現までが全部セットで、どこが効いたかは選手によって変わる。
日本にも“似たような施設”はある?答え:ある(ただし形は複数パターン)
日本にも「日本版ドライブライン」と言われるような、投球をデータとバイオメカで扱う民間ラボが出てきている。大きく分けると3タイプ。
タイプA:モーションキャプチャ+球質計測をワンストップで持つ“分析ラボ型”
- NEXT BASE ATHLETES LAB(千葉県市川市):モーションキャプチャ、フォースプレート、Rapsodo等を備え、測定→評価→トレーニングを一体で行う、という形で紹介されている
タイプB:大型トレーニング施設に“ベースボールラボ(計測エリア)”が併設される型
- エイジェックスポーツ科学総合センター:Rapsodo/TrackMan/ハイスピードカメラ、フォースプレート付きマウンド、動作解析などを備える施設として紹介されている
タイプC:計測機器を導入した室内練習場・野球ジムが“点在”する型
全国に、Rapsodoなどの計測ができる施設が点在しており、「計測→フォーム修正→再計測」のループ自体は国内でも組める。
(ドライブラインのような大規模R&Dラボと同等かは別として、発想は近い)
日本で“ドライブライン的”に取り組むためのチェックリスト
- 目的が明確か:球速?球種の形?制球?ケガ予防?(目的が違うと必要機材も違う)
- 最低限の計測があるか:球速だけでなく、回転・変化・リリースを見られるか
- 動作解析があるか:ハイスピード/可能ならモーションキャプチャ(マーカーレス含む)
- 投球量・負荷管理があるか:プライオボール等は“量”が雑だと事故りやすい
- トレーニングが投球に接続しているか:筋トレだけ、技術だけ、で分断していないか
まとめ
- ドライブラインは「特殊メニュー」よりも計測→仮説→介入→再計測の開発ループが本体
- 中核はモーションキャプチャ等のバイオメカ解析と、Rapsodo/TrackMan等を使う球質計測
- プライオボールは“球速UPの魔法”ではなく、負荷設計の道具。投球量管理・評価とセットが前提
- 日本にも「分析ラボ型」「大型施設併設型」「計測可能施設が点在型」として、似た発想の拠点が増えている
参考資料(本文に引用タグなし方針)
- Driveline Baseball(公式):Pitching Training(プログラム思想、リモート対応)
- Driveline Baseball(公式):Pitch Design(計測技術と設計プロセス)
- Driveline Baseball(公式):Weighted Balls関連リサーチ記事
- 学術論文:Weighted implements throwing programの効果(球速・関節負荷)
- The Japan Times:NPB投手とDrivelineの関係
- 朝日新聞GLOBE+:大谷翔平と施設、モーションキャプチャ・ピッチデザインの描写
- Number:NEXT BASE ATHLETES LAB(日本版ドライブライン的施設の紹介)
- スポーツナビ(公式):エイジェックスポーツ科学総合センター(計測設備の紹介)
- Rapsodo Japan:計測機器の概要/計測可能施設の紹介



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