埼玉西武ライオンズが「西武ライオンズ海外戦略」の一環として、ウガンダ出身右腕イサビレ・ムサ・アゼッド投手と育成契約を結びました。
ウガンダ人選手がNPB球団と契約するのは史上初。アフリカの新興野球国からやってきた20歳の右腕は、どんな経歴とスタッツを持つ投手なのでしょうか。
ここでは、これまでの歩みと旭川ビースターズ(北海道ベースボールリーグ)での成績、投手としての特徴を整理し、西武での将来像を考えてみます。
イサビレ・ムサ・アゼッドのプロフィール
・氏名:イサビレ・ムサ・アゼッド(Isabirye Musa Azed)
・生年月日:2005年7月27日(20歳)
・出身:ウガンダ共和国・ルウェロ周辺(動画紹介などによる)
・身長/体重:180cm/73kg
・投打:右投右打
・ポジション:投手
・経歴:Kitebi Junior High School → Avrs Secondary School(ウガンダ)→ Shaona Baseball Club(ウガンダ)→ 旭川ビースターズ(2024〜2025)→ 埼玉西武ライオンズ(育成)
・背番号(西武):141
ウガンダ国内クラブや育成プロジェクトを経て頭角を現し、アフリカ出身選手の発掘・育成を掲げる日本企業やNPOのサポートを受けて来日。2024年から北海道ベースボールリーグの旭川ビースターズでプレーし、2026シーズンから西武の育成選手としてNPBの舞台に挑むことになりました。
ウガンダ野球とムサの「特別なバックグラウンド」
野球後進国からNPBへ至るまで
ウガンダで野球が本格的に広まったのは1989年頃とされ、アメリカの伝道団体や日本の青年海外協力隊、アフリカ野球支援団体などが長年にわたり普及活動を続けてきました。
近年はウガンダ代表が国際大会に出場するようになり、MLB傘下や日本の独立リーグでプレーする選手も現れています。ウガンダ野球はまだ「マイナースポーツ」ですが、急速にレベルが上がっている新興地域です。
ムサもその流れの中から生まれた新世代の投手です。地元のShaona Baseball Clubや、恵まれない子どもたちを支援する団体「Every Child Deserves a Chance(ECDC)」などの育成プログラムを通じて才能を伸ばし、同じウガンダ出身のチャッゼ・フレッドらとともに日本独立リーグへの挑戦権を掴みました。そして2024年に旭川ビースターズに加入。日本の独立リーグで経験を積み、2025年には西武ライオンズとの育成契約に至っています。
西武の「海外戦略」としての意味
西武は2025年、「中南米だけでなく、ヨーロッパやアフリカ、アジアなど世界各地から有望な若手を発掘・育成する」ことを掲げた海外戦略を発表しました。その第一弾として、ウガンダ出身のムサとフレッド、スロベニア出身のカルロス・トーバー内野手の3人と育成契約を締結。ウガンダおよびスロベニア出身選手との契約はNPB史上初となります。単なる「助っ人外国人」ではなく、「若い才能を一から育てて戦力化する」プロジェクトの象徴的な存在がムサと言えるでしょう。
旭川ビースターズでの成績とスタッツ
2025年・北海道ベースボールリーグでの数字
ムサは2025年、北海道ベースボールリーグ(HBL)の旭川ビースターズで主にリリーフとして登板しました。公式成績は以下の通りです。
- 登板:25試合(うち先発7試合)
- 成績:3勝2敗、2ホールド、セーブなし
- 投球回:45回1/3
- 被安打:29
- 被本塁打:1本
- 与四球:45
- 与死球:3
- 奪三振:58
- 暴投:15、ボーク:4
- 失点:32、自責点:15
- 防御率:2.98
- WHIP:1.63
- 被打率:.185
- K/9(9回あたり奪三振):11.51
- BB/9(9回あたり与四球):8.93
チーム全体の防御率が6点台、被打率も.285と打高傾向のリーグの中で、防御率2.98と被打率.185は際立った数字です。一方で、45回1/3で45四球・15暴投という制球の荒さも非常に目立ちます。「当たればなかなか打てないが、ストライクゾーンに入るまでが大変」というタイプであることが、スタッツからもはっきり見て取れます。
150キロ近い速球とパワーピッチャーとしての片鱗
ムサの最大の武器はストレートの球速と球威です。
ウガンダ時代の映像紹介では最速148km/hとされ、別のスカウト情報では92マイル(約148km/h)に達したと紹介されています。20歳という年齢を考えると、将来的に150キロ台に届いてもおかしくないポテンシャルがあります。
球種については公的なデータは多くありませんが、映像やスカウトコメントからは「力で押すファストボール主体のパワーピッチャー」であることがうかがえます。
HBLでのK/9が11.5と高い一方でBB/9が8.9と極端に高く、ストレートの威力に比べてコントロールやリリースの再現性がまだ完成途上であることが数字にも表れています。
投手としての特徴とNPBでの将来性
特徴① 希少な「アフリカン・パワー右腕」タイプ
NPBでアフリカ出身の投手はほとんど例がなく、ウガンダ出身右腕というだけで極めてレアな存在です。
180cm・73kgと体格はまだ細身ですが、球速148km/h級のストレートを投げ込めることからも分かるように、身体能力のポテンシャルは高いと言えます。
これに日本式の投球フォーム・トレーニングが上乗せされれば、球速アップやスタミナ向上の伸びしろは大きいでしょう。
特徴② 「ノビは凄いが制球が課題」という典型的な素材型
HBLのスタッツを見ると、被打率.185・K/9 11.51という「打たれない投手」である一方、四球が非常に多く、暴投も15と荒れ球タイプです。
NPBレベルの打者相手に同じような四球の多さだと、試合を作るのは難しく、まずはフォームの安定とリリースポイントの固定、メカニクスの細かい修正が最優先課題になるはずです。
ただし、制球は日本の指導環境と投げ込み量で改善が見込める領域でもあります。西武はこれまでも素材型外国人投手をじっくり育てる実績を持っており、育成契約で時間をかけて矯正していくプランが想定されます。
特徴③ リリーフから一軍を目指すルートが現実的
現時点の投球内容や四球の多さ、HBLでの起用法(リリーフ中心)を考えると、NPBではまず短いイニングの中継ぎとして一軍デビューを狙う形が現実的でしょう。
ストレート主体で1〜2イニング全力投球するスタイルなら、多少四球があっても球威でねじ伏せる場面が出てくるかもしれません。
一方で先発を視野に入れるのであれば、
・ストレートの空振り率をさらに高めること
・カウント球として使えるスライダーやチェンジアップ系の精度アップ
・四球率の大幅な改善
など、課題はかなり多くなります。育成契約という枠組みを踏まえると、当面は「速球派リリーフとして一軍の戦力化を狙いつつ、長期的には先発転向の可能性も探る」イメージになるでしょう。
おまけ:イサビレ・ムサ・アゼッドの投球を可視化してみた。
あくまでも可視化は参考程度。オーバースローかつ足をかなり上げるダイナミックなフォームですね。
まとめ:西武の「海外戦略」を象徴する、ロマン型ウガンダ右腕
イサビレ・ムサ・アゼッドは、ウガンダのローカルクラブと育成プロジェクトで野球を始め、独立リーグ・旭川ビースターズを経て西武ライオンズにたどり着いた、非常にユニークなバックグラウンドの持ち主です。
HBLでは被打率.185・防御率2.98と「打たれない投球」を見せる一方、45回1/3で45四球・15暴投という極端な制球難も同居する、「伸びしろだらけ」の素材型右腕と言えます。
西武としては、
・150キロ近いストレートという希少な武器
・20歳という若さと国際的な話題性
・アフリカ市場開拓というクラブの長期戦略
といった要素を見込んでの育成契約でしょう。
制球面の課題がどこまで改善するか次第で、「一軍で150キロ台を連発するウガンダ出身リリーバー」というNPB史上初の存在になれるポテンシャルを秘めています。日本球界だけでなく、母国ウガンダの野球少年たちにとっても、ムサの挑戦は大きな希望になるはずです。



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