「チェンジアップ」と聞いて想像する“落ちる・遅い・空振りを取る”というテンプレを、正面から破壊してくるのがデビン・ウィリアムズの“Airbender”だ。 右投手なのに、まるで左投手の大きく曲がる球のように利き腕側(アームサイド)へ横滑りし、しかも回転数は異常値。 今回はこの球種を、できるだけ“数字だけ”で振り返る。
まず結論:このチェンジアップが「やばい」理由(数字で)
- 横変化が「ホームベース幅(17インチ)」を超えるのが常態:2023年は投じたチェンジアップの99.2%(262/264)が“17インチ以上”の横変化。
- 右投手で唯一クラスの「19インチ超えアームサイド」:2024年の平均横変化は19.4インチ(アームサイド)。
- “最高回転チェンジアップ級”:スピンは2,752rpmというレンジで語られる(平均的チェンジアップの常識から逸脱)。
- Statcastの結果が強烈:2020年は被打率.032、Whiff% 61.1%、PutAway% 52.6%という“ほぼ反則”の数字。
Airbenderのスペック(球速・変化量)
まずは「どう動く球なのか」を固定する。下はStatcastのピッチムーブメント(総変化)系の代表値。
| 年 | 球速(mph) | 縦方向の落差(in) | 横変化(in) | ひとこと |
|---|---|---|---|---|
| 2023 | 83.8 | 41.3 | 19.8(ARM) | “ベース幅超え”が日常化 |
| 2024 | 84.4 | 42.3 | 19.4(ARM) | 右投手のアームサイドで19インチ台 |
| 2025 | 83.7 | 44.3 | 19.2(ARM) | “落ち”も強くなりやすい年 |
重要なのは「速さ」でも「落ち幅」でもなく、右投手なのにアームサイドへ“スイーパー級”の横滑りが乗る点。 同じ“横に大きい球”でも、右投手のスライダーやスイーパーは基本的にグラブサイドへ逃げる。 Airbenderはその逆方向に、しかも同等以上の横変化で入ってくる。
年度別:チェンジアップの支配力(Run Value/Whiff/PutAway)
「どれだけ空振りを取れて、どれだけアウトを完結できて、結果がどれだけ良かったか」を同じフォーマットで並べる。 ※Run ValueはStatcast表示に合わせて記載。
| 年 | 投球数 | 使用率 | Whiff% | PutAway% | 被打率 | wOBA | Run Value | RV/100 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2019 | 93 | 36.6% | 31.4% | 15.8% | .222 | .295 | 0 | 0.5 |
| 2020 | 227 | 52.7% | 61.1% | 52.6% | .032 | .093 | 13 | 5.6 |
| 2021 | 634 | 63.8% | 47.2% | 32.6% | .161 | .230 | 13 | 2.0 |
| 2022 | 620 | 58.1% | 43.9% | 24.8% | .185 | .255 | 10 | 1.5 |
| 2023 | 549 | 57.9% | 43.2% | 30.8% | .097 | .210 | 15 | 2.8 |
| 2024 | 176 | 45.0% | 48.8% | 31.9% | .162 | .240 | 3 | 1.5 |
| 2025 | 584 | 52.4% | 37.3% | 21.4% | .194 | .273 | 7 | 1.3 |
注目は2021〜2023のゾーン。使用率が6割前後まで上がっても、被打率・wOBA・Run Valueが崩れにくい。 普通の変化球は「投げ過ぎるほど読まれる」方向へ寄るが、Airbenderは投げ過ぎても“当てること自体”が難しい側に残り続けた。
「ホームベース幅」を超える横変化:2023年の“異常値”
Airbenderを象徴する小ネタがある。 ホームベースは17インチ。2023年、ウィリアムズのチェンジアップは投球の大半がこの“17インチ”を超える横変化を記録した。 極端な横変化は「たまに出る最大値」ではなく、ほぼ毎回出る。
- 2023年:チェンジアップ264球中、262球が横変化17インチ以上(99.2%)
ここまで来ると「ストライクゾーン内で勝負する」のではなく、“打者の照準”そのものを破壊しているイメージが近い。 外に見えた球が、打者が振り出す頃には内側へ入り、しかも落ちる。
なぜチェンジアップなのに“回転が多い”のか
一般的なチェンジアップは回転数が低めで、重力+回転効率の低さで沈むタイプが多い。 ところがAirbenderは、チェンジアップとして語られながら「最高回転クラス」の枠で説明される。
回転数が多い=常に強い、ではない。 ただしこの球は、回転のかけ方が結果として“右投手のアームサイドに大きく曲がる”という、チェンジアップとしては反則的な挙動に繋がっている。
MLB成績側から見る“チェンジアップ依存”の成立
最後に「その球を軸に、リリーバーとしてどれだけの支配力を積み上げたか」。 ウィリアムズはMLB通算でも、K/9が14超、被本塁打率が低く、ERAも低水準にまとまる。
| 区分 | 登板 | セーブ | 投球回 | K/9 | BB/9 | HR/9 | ERA | FIP |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| MLB通算 | 308 | 86 | 297.2 | 14.06 | 4.14 | 0.60 | 2.45 | 2.45 |
| 2020(参考:ピークの象徴) | 22 | 0 | 27.0 | 17.67 | 3.00 | 0.33 | 0.33 | 0.86 |
2020年は短縮シーズンとはいえ、チェンジアップ単体の数値(Whiff/PutAway/被打率/wOBA)と、投球全体の数値(ERA/FIP/K/9)が同時に壊れている。 「やばい変化球列伝」でこの球が外せない最大の理由だ。
2025年:数字が示す“攻略の糸口”
支配的な球種にも“揺らぎ”は出る。Statcastの球種別結果を見ると、2025年はチェンジアップのWhiff%とPutAway%がピーク年(2020)からは落ちる。 それでも使用率は5割を超え、被打率やwOBAは悪化しきっていない。
- 2025年チェンジアップ:Whiff% 37.3%/PutAway% 21.4%/被打率 .194/wOBA .273
「Airbenderは打てない」から「Airbenderでも空振りを奪い切れない試合がある」へ。 この変化は、配球(読み)・カウント・ゾーン管理・球速帯の微差など、“球そのもの”以外の要因が結果へ反映され始めたサインとして読むのが自然だ。
まとめ:Airbenderは“変化球”というより、打者の前提を壊す装置
- 右投手なのに、アームサイドへ19インチ級で滑る(年によってはベース幅超えが常態)。
- チェンジアップとしては異端の高回転で、挙動が“別球種”になる。
- Statcastの球種別結果で、ピーク年は被打率.032/Whiff 61%級の壊れ方。
- 使用率を上げても数字が崩れにくい期間が長く、「1球種でブルペンを支配する」条件を満たした。



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