2021年オフ、日本ハムが西川遥輝・大田泰示・秋吉亮の3選手に対して「ノンテンダー」と発表したニュースは、多くのファンに衝撃を与えました。 「戦力外なの?」「FAなの?」「結局どういう扱い?」と、制度面でもモヤモヤが残った出来事でした。
この記事では、
- そもそも「ノンテンダー」とは何か(MLB/NPB)
- 日本ハムが実際にやったことの中身
- 他球団で起きていた、実質的に「ノンテンダーに近い」ケース
- この一連の措置が選手側・球団側にとって何を意味したのか
を整理していきます。
1. 「ノンテンダー」とは何か?もともとはMLBの用語
1-1. MLBにおけるノンテンダーの定義
メジャーリーグでは、オフに球団が保有権を持つ選手に来季の契約を「テンダー(tender=提示)」するかどうかを決める締切日があります。 このとき、球団が契約を提示しない(=non-tender)と、その選手は即座にFA(フリーエージェント)になります。
ポイントをまとめると:
- 対象は、球団が依然として保有権を持っているが、来季の年俸交渉が必要な選手(多くは年俸調停権を持つ選手)
- 「ノンテンダー」=「来季の契約を提示しない」=選手を市場に放出してFAにする手続き
- 成績に対して年俸が高くなりすぎた選手に対して使われることが多い
- FAになったあと、元の球団と再契約するケースもある(ただし大幅減俸になりがち)
つまりMLBにおけるノンテンダーは、
「戦力として完全に不要なわけではないが、その年俸水準では保てない選手を、一度FAにして整理する仕組み」
という位置づけです。
1-2. 日本プロ野球(NPB)との違い
NPBには、MLBのような厳密な意味での「ノンテンダー制度」はありません。 NPBで近い概念は、
- 契約保留選手名簿に載せる(保留権を持ち続ける)
- 名簿から外して自由契約にする(戦力外通告・自由契約公示)
という2択です。
そのため、日本では「ノンテンダー」という言葉自体は、正式な制度名ではなく、あくまで“説明用の呼称”にすぎません。
2. 日本ハムが行った「ノンテンダー」の中身
2-1. 2021年オフ、西川・大田・秋吉への通達
2021年11月16日、日本ハムは以下の3選手について、
- 西川遥輝(海外FA権取得)
- 大田泰示(国内FA権取得)
- 秋吉亮(国内FA権取得)
に対し、「2022年度の契約を提示せず、保留手続きを行わない」=ノンテンダーと発表しました。
稲葉GMは、
- 選手が取得したFA権を尊重し、制約のない状態で移籍先を選べるようにしたい
- ファイターズとの再契約の可能性は閉ざさない
と説明しています。
手続きとしては、
- 契約保留選手名簿に載せない(=球団の保有権を放棄)
- 3選手は自由契約となり、NPBの全球団+メジャー・独立リーグとも自由に交渉可能
- もし市場で契約が見つからなければ、日本ハムとも「自由契約選手として」再契約できる
という形で、NPBの制度上は「自由契約公示」と同じですが、それをMLB風に「ノンテンダー」と呼んだ、というのが実態です。
2-2. 日本ハムが過去に行っていた「事実上ノンテンダー」の3例
実は日本ハムは、2021年より前から、一度自由契約として公示したうえで、大幅減俸で再契約するという措置を何度か行っています。 報道で整理されている主な3例は以下の通りです。
- 2006年オフ:坪井智哉(外野手)
25試合出場・打率.191と成績が落ち、一度戦力外 → 自由契約に。トライアウト後も移籍先が見つからず、日本ハムが推定9000万円→2000万円に大減俸して再契約。 - 2010年オフ:多田野数人(投手)
登板機会減少により戦力外 → 自由契約。移籍を模索したのち、3500万円→800万円(約77%ダウン)で再契約。 - 2020年オフ:村田透(投手)
21試合登板・防御率3.55という数字ながら、12月に自由契約公示。その後、4000万円→1600万円で再契約。
これらはいずれも、
- 一度保留選手から外すことで「減額制限(1億円以下は25%)」の縛りを外す
- 市場で他球団からのオファーがなければ、大減俸条件で“出戻り”してもらう
という意味で、実質的に「ノンテンダー的な運用」になっていたと言えます。
2-3. 3選手の“その後”と、選手会の反発
2021年オフにノンテンダーとなった3選手は最終的に、
- 西川遥輝:楽天 → その後ヤクルトなどを経て、2025年オフには古巣・日本ハム復帰が報じられる
- 大田泰示:DeNAへ移籍
- 秋吉亮:NPBからのオファーがなく、独立リーグを経てソフトバンク入り
と、“日本ハムへの大幅減俸での出戻り”にはなりませんでした。 そのため結果として、措置の中身は「戦力外通告」とほとんど変わらなかった、という見方も出ています。
さらに2022年4月、日本プロ野球選手会は、
- このノンテンダーの使い方は「単に選手の価値を一方的に下げるもの」
- 「ノンテンダーなどと称し、選手やファン、社会一般に誤解を与えることがないように」と球団へ抗議
という文書を提出。
日本ハム側も選手会と協議し、今後は「ノンテンダー」という言葉自体を使用しないと表明しています。
3. ノンテンダーは何が問題視されたのか
3-1. 減額制限を回避するための「抜け道」になっていた
NPBでは、保留選手として契約する場合、
- 年俸1億円以下:最大25%減
- 1億円超:最大40%減
までしか減俸できません(いわゆる「減額制限」)。 ところが、一度自由契約にしてから再契約する場合は、この減額制限が適用されません。
そのため、
- 球団:減額制限以上の大減俸が可能
- 選手:移籍市場に出られるが、同じポジション・成績の選手と比較されて、年俸が市場価格ベースでシビアに査定される
という構図になり、結果として選手側の交渉力を削ぐ方向に働く、という批判が出ました。
3-2. 「戦力外」と「ノンテンダー」の境界が曖昧
理屈の上では、
- 戦力外通告:「構想外」として球団側に再契約の意思がない
- ノンテンダー:「この条件では契約しないが、条件次第では再契約もあり得る」
と説明されます。
しかし、2021年の日本ハムのケースでは、
- 3人とも最終的に他球団/独立リーグへ移籍
- 結果だけ見れば、通常の戦力外通告と同じ=「再契約ゼロ」
となったため、「言葉だけMLB風にオシャレにした戦力外では?」という受け止め方が広がりました。
4. 他球団で見られた「ノンテンダー相当」のケース
「ノンテンダー」という表現こそ使っていないものの、実質的には近いことをしていた例は、他球団にも存在します。
4-1. オリックス・吉井理人(2004〜2005年)
代表的なのが、オリックス・吉井理人投手のケースです。
- 2003年に日本球界復帰しオリックスでプレー
- しかし成績不振などもあり、2004年オフに戦力外通告(自由契約)を受ける
- その後、日米のトライアウトを受けるも移籍先が見つからず、翌05年春にテスト生としてオリックス・バファローズに参加
- テスト合格後、年俸500万円+出来高2000万円(推定)で再契約
一度完全に自由契約として手放したうえで、市場で行き場がなくなったところを、極めて低い年俸で拾い直す構図は、日本ハムが多田野・村田らに行った「自由契約 → 大減俸で再契約」と極めて近いものです。
4-2. オリックス・金子千尋(2018年オフ)
もう一つ象徴的な例が、オリックス・金子千尋(現・金子弌大)投手です。
- 年俸5億円クラスのエース級投手だったが、成績・コストのバランスが問題視される
- 球団は大幅減俸を提示し、受け入れなければ自由契約もあり得るという状況に
- 実際に2018年オフに自由契約となり、「自由契約後も再契約の意思がある」と球団は伝えたと報じられている
- 最終的にはオリックスではなく、日本ハムと新たに契約
形式上はただの「自由契約」ですが、
- 高額年俸+複数年契約を一度リセットし
- 市場の評価を踏まえて条件を再設定する
という点で、MLBのノンテンダーFAに非常に近いケースだと解釈できます。
4-3. 巨人の「一斉自由契約 → 育成再契約」(2021年)
2021年オフには、巨人が複数の若手・中堅選手を一斉に自由契約とし、育成契約で再契約する方針をとったことも話題になりました。
- 支配下選手としては戦力構想から外しつつ、育成契約なら残すという判断
- 選手は一度自由契約になり、他球団と交渉する道もあるが、実際には条件的に厳しく、元球団と育成契約で残る選手が多い
これも、
- 球団側:支配下枠と年俸コストを削減
- 選手側:チャンスは残るが、立場・収入は大きく下がる
という意味で、「コスト調整を優先した自由契約 → 再契約」の一形態といえ、日本ハムのノンテンダーと構造的には似ています。
5. ノンテンダーをどう評価すべきか
5-1. 球団側のメリット
- 減額制限を超えた大幅減俸が可能(自由契約後の再契約であれば上限なし)
- 高額年俸の選手のコストを一度リセットできる
- 他球団が高い条件で獲得するなら、「高い年俸を払うのは他球団に任せる」という選択も取れる
5-2. 選手側のメリット・デメリット
メリット
- 本来はFA権を持っていなくても、事実上のFA状態になれる場合がある
- 他球団との交渉で、条件アップの可能性もゼロではない
デメリット
- 市場に似たタイプの選手が多いと、「買い叩き」の対象になりやすい
- 元の球団と再契約する場合でも、大幅減俸がほぼ既定路線
- 「チームの顔」「功労者」としてのプライドが傷つきやすい
日本プロ野球選手会が問題視したのも、まさにここで、
- 減額制限というルールを事実上骨抜きにしてしまう
- 選手の市場価値を意図的に押し下げるインセンティブが働く
という構造があるからです。
5-3. ファン目線でどう捉えるか
ファンとしては、
- 「ノンテンダー」というカタカナの響きに惑わされず、中身が『自由契約』『戦力外』とどう違うのかを見る
- 球団のコスト管理としては理解できる一方で、功労者の扱いとして適切だったかを個別ケースごとに考える
- 他球団の同様の事例(オリックス・吉井、金子千尋、巨人の一斉育成再契約など)と比較しながら、NPB全体での「労使バランス」を意識する
という視点を持っておくと、ニュースの受け止め方が少しクリアになります。
6. まとめ
- 「ノンテンダー」はもともとMLB用語で、球団が来季の契約を提示せず、選手をFAにする手続きを指す。
- NPBに正式なノンテンダー制度はないが、日本ハムが2021年オフに3選手を「保留手続きせず、自由契約」とした際、この言葉を用いた。
- 日本ハムは過去にも坪井智哉、多田野数人、村田透らを一度自由契約 → 大減俸で再契約しており、実質的にノンテンダー的な運用をしていた。
- 他球団でも、オリックスの吉井理人(戦力外 → テスト → 年俸500万で再契約)や、金子千尋の自由契約化、巨人の「一斉自由契約→育成再契約」など、構造的に近いケースが存在する。
- 選手会は、日本ハムのノンテンダーを「選手の価値を一方的に下げるもの」として批判し、日本ハムは今後この用語を使わないと表明した。
「ノンテンダー」と聞くと、どこか特殊な制度に感じますが、本質は『自由契約の出し方と、その後の再契約の仕方』の問題です。 今後も同じような事例が出てきたときには、
「保留権をどう扱ったのか」「減額制限をどう回避しているのか」「選手にどんな選択肢が残されたのか」
という3点を押さえておくと、ニュースの背景が見えやすくなるはずです。
参考文献・参考サイト
- MLB.com Glossary「Non-tendered」および「Non-tender Free Agent」に関する解説記事
- ベースボール89.com「【プロ野球】ノンテンダーとは?球団側と選手側のメリットを解説」
- スポスル「【野球】ノンテンダーとは?戦力外通告との違いも解説!」
- 弁護士ドットコムニュース「流動性の低い『日本のFA』が格差を生む 日ハム『ノンテンダー』は何が問題か」
- COCORO+NEXT「まさか!新庄日本ハムが主力3選手をメジャー流『戦力外』!」および「ノンテンダー禁止で解決するのか 日本ハムが『悪手』を打った理由」
- Full-Count「自由契約からの“出戻り”は大減俸必至…日本ハムの過去3例」
- 日刊スポーツ・ほか、日本ハムのノンテンダー発表およびプロ野球選手会のコメント報道
- デイリー新潮「中村紀洋、吉井理人、今岡誠…春季キャンプの『テスト生』から見事に這い上がった名選手」
- スポニチ「若手、中堅、ベテランに…弱者救済の世界ではないプロ野球 一斉育成契約、ノンテンダーに考える」



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