ポスティングでMLB挑戦を表明していた西武ライオンズのエース・今井達也投手が、ヒューストン・アストロズと3年総額5400万ドル(最大6300万ドル)の契約に合意したと報じられています。年俸総額だけを見れば近年の日本人エースに比べて控えめで、そのぶん西武に入るポスティング譲渡金も「思ったより少ない」という声が出ています。
一方で、契約の中身やアストロズという球団の性格を見ていくと、「少ない」と断じてしまうのも少し違う側面が見えてきます。ここでは、
- 今井達也のこれまでのNPB成績
- アストロズとの契約内容とポスティング譲渡金
- 過去のポスティング案件との比較
- アストロズという球団の特徴と、過去の日本人選手
- 今井がアストロズでどんな役割を担いそうか
あたりを整理していきます。
今井達也のプロフィールとNPBでの実績
- 名前:今井 達也(いまい・たつや)
- 生年月日:1998年5月9日(27歳)
- 出身:栃木県鹿沼市
- 投打:右投右打
- 身長/体重:180cm/80kg前後
- 経歴:作新学院高 → 埼玉西武ライオンズ(2016年ドラフト1位)
NPB公式やパ・リーグ公式のデータによると、2025年までの通算成績は159試合登板で58勝45敗、防御率3.15、963回2/3で907奪三振。
特にここ4〜5年は「パ・リーグ屈指のイニングイーター兼エース格」として安定していました。
2025年は“NPB最上位クラス”のシーズン
最新シーズン(2025年)の西武での成績は、
- 24試合 10勝5敗、防御率1.92
- 163回2/3で178奪三振・45与四球
- 被本塁打わずか6本
- 5完投・3完封という「平成〜令和後期ではかなりレア」な完投数
パ・リーグ公式の投手成績でも、2025年シーズンの今井はERA1点台・K/9=約9.8・BB/9=約2.5と、
「球威も制球も整った、本格派エース」の数字を残しています。
2021年以降は毎年防御率3点台前半〜2点台を維持しており、MLB.comの紹介記事でも 「21年以降は一貫してリーグ上位のスターター」と評価。
ポスティングに踏み切るタイミングとしても、これ以上ない「上がり切ったところ」での移籍と言えるでしょう。
アストロズとの契約とポスティング譲渡金の仕組み
契約概要:3年5400万ドル+出来高で最大6300万ドル
AP通信や米メディアの報道を整理すると、今井の契約内容は以下の通りとされています。
- 契約年数:3年
- 保証額:5400万ドル
- 出来高払い:最大900万ドル(イニング数などで加算)
- 総額:最大6300万ドル
- 年俸内訳:サインボーナス200万ドル+年俸1600万→1800万→1800万ドル
- オプトアウト:2年目・3年目終了後に今井側の選択権
ポイントは、「年平均1800万ドル」というAAV(平均年俸)は高い一方、契約年数を3年に抑えていることです。
MLB.comやHouston Chronicleなどによれば、日本人投手としては山本由伸、田中将大に次ぐ3番目の高AAVと報じられています。
つまり「年俸はエース級、しかしあえて短期勝負」というスタイル。
これは今井側がMLBで実績を積んだ後、改めて大型契約を狙うための戦略とみられています。
ポスティング譲渡金:約967.5万ドル+出来高の15%
一方、西武ライオンズに入るポスティング譲渡金について、APの報道では、
- 基本の譲渡金:約967.5万ドル
- 出来高や年俸エスカレーター分の15%が追加で支払われる仕組み
となっています。
現在のNPB–MLB間のポスティング制度では、契約総額に応じて以下のように段階的に譲渡金が決まるルールです。
- 最初の2500万ドル:その20%
- 次の2500万ドル:その17.5%
- 5000万ドルを超える分:その15%
今井の場合、保証額5400万ドルと比較的コンパクトな契約のため、
絶対額としての譲渡金は1,000万ドル弱にとどまっているわけです。
本当に「ポスティング譲渡金が少ない」のか?過去の例と比較
田中将大・山本由伸との比較
ポスティング譲渡金が「少ない」と言われる背景には、
田中将大、山本由伸といった、近年のビッグディールのイメージがあります。
- 田中将大
・7年1億5500万ドル(ヤンキース)
・楽天へのポスティングフィーは2000万ドル(当時の上限いっぱい) - 山本由伸
・12年3億2500万ドル(ドジャース)
・オリックスへのポスティングフィーは約5060万ドル - 今井達也
・3年5400万ドル(最大6300万ドル、アストロズ)
・西武へのポスティングフィーは約967.5万ドル+出来高の15%
絶対額だけを見ると、確かに「1,000万ドル弱」という数字は印象として小さく見えます。
しかし、契約総額に対する割合で見ると、話は少し違ってきます。
- 田中:20M ÷ 155M ≒ 約12.9%
- 山本:50.6M ÷ 325M ≒ 約15.6%
- 今井:9.675M ÷ 54M ≒ 約17〜18%
このように、今井の譲渡金は「金額は小さいが、割合で見ればむしろ高い」水準です。
「少ない」と感じるのは、契約年数が短くトータルの金額が抑えられた結果であって、
制度上「過小評価された」というよりは、今井側の“短期・高AAV”戦略の副作用と言うべきでしょう。
仮に当初の報道通り、5〜6年・1億ドル超級の契約になっていれば、
譲渡金は2000万ドル〜3000万ドル規模になっていた可能性もあります。
その意味では、「西武にとってはやや物足りないが、ゼロで流出するよりは大きい」ラインに落ち着いたと言えそうです。
アストロズはどんな球団か?“黄金期”の継続と再構築
ワールドシリーズ2度制覇&AL西地区の王者
ヒューストン・アストロズはテキサス州ヒューストンを本拠地とするMLB球団で、
近年は「MLB屈指の常勝軍団」として知られています。
- ワールドシリーズ優勝:2017年・2022年
- リーグ優勝(ペナント):ナ・リーグ1回、ア・リーグ4回
- AL西地区優勝:2017年以降、フルシーズンで7回以上
- 2020年代前半は7年連続リーグ優勝決定シリーズ進出という「黄金期」を形成
もちろん、2017年前後のサイン盗み(ゴミ箱バンバン)問題で球界を大きく揺るがした球団でもありますが、
その後もドラフト・育成・トレードを駆使しながら、長期的に強さを維持してきました。
2025年は主力の故障や戦力流出もあり、9年ぶりにポストシーズンを逃したものの、
それでも87勝75敗と勝ち越し。2026年は再び優勝争いに戻るための“建て直しシーズン”という位置づけになります。
ローテーションの課題と今井の位置づけ
現在のアストロズ先発陣は、
- 若きエース候補であるハンター・ブラウン
- トミー・ジョン手術から復帰途上のクリスチャン・ハビエル
- 実績あるベテランたちの年齢・故障リスク
といった事情があり、「安定して180イニング近く投げられる先発」が不足していました。
そこに、2025年に163回2/3・5完投を投げた今井が加入する形です。
米メディアは、今井について 「ブラウンに次ぐローテーション2番手クラス」と見ており、
開幕から上位ローテーションを任される可能性が高いと見られています。
アストロズと日本人選手の関係
これまでの日本人選手たち
アストロズは、日本人スター選手を積極的に獲得してきた球団…というイメージはあまりありません。
実際、これまでアストロズでプレーした日本人メジャーリーガーは、
- 松井稼頭央(内野手)
- 青木宣親(外野手)
- 菊池雄星(先発左腕/2024年途中〜シーズン終了まで)
の3人のみと整理されています。
菊池は2024年途中にトロントからトレードで加入し、アストロズで10先発・防御率2.70・5勝1敗と好投したのち、翌オフにエンゼルスへ移籍しました。
つまり、「NPBから直接ポスティングで来た先発エース級」という意味では、今井はアストロズ史上初のクラスと言ってよく、
球団としても「日本市場への本格参入」の色合いが強い契約となっています。
今井の投球スタイルとアストロズでの適性
投球スタイル:95〜99マイルの真っすぐにスライダー&チェンジアップ
スカウティングレポートや各種分析を総合すると、今井の特徴はだいたい次のように整理できます。
- フォーム:やや低めのスリークォーター
- 平均球速:95マイル前後、最速99マイルに達するストレート
- 変化球:鋭いスライダー、チェンジアップ、カーブも織り交ぜる
- 2025年の指標:ERA1.92、K/9=約9.8、BB/9=約2.5、被本塁打6本
NPBの平均的な三振率・与四球率と比べても、「三振が取れて四球も多くない」タイプで、
かつ長いイニングを投げられるスタミナも備えています。
球場・チームとの相性:フライボール投手にも優しい環境
アストロズの本拠地ミニッツメイド・パークは、「左中間のクレメンス・バルコニー」「左翼の狭さ」などから
一見“打者有利”なイメージがありますが、近年は中堅の広さやフェンスの調整もあり、そこまで極端な本塁打量産球場ではないとされています。
今井は2025年にわずか6本しか本塁打を許していないように、
そもそも被弾の少ないタイプであり、
強力なアストロズ守備陣と合わせれば、“フライボール気味”でも致命傷になりにくい環境と言えます。
またアストロズは、菊池雄星のトレード以降も、回転数・ゾーン内空振り率などのデータを重視する球団として知られており、
今井のストレート+スライダーのコンビネーションはまさに「アストロズ好み」の素材です。
アストロズから見た“コスパ”と、ポスティング譲渡金の意味
アストロズ側から見れば、
- 年平均1800万ドルという比較的リーズナブルなAAVで
- 27歳の“今が全盛期”のエース級を
- わずか3年のコミットで獲得しつつ、毎年オプトアウトでリスクをコントロールできる
という、かなりバランスの良いディールです。
その上で、西武へのポスティング譲渡金も1,000万ドル弱+αで済むため、
アストロズにとっては「大型FA投手よりはるかに小さい総投資でエース級の期待値を買えた」形になります。
一方、西武から見れば、
- 長年のエースを失うダメージは非常に大きい
- しかし、ポスティングを認めなければ翌年以降に完全FAで“タダ同然”の流出リスクもあった
- 結果として、約1000万ドル+出来高分という「最低限の売却益」は確保できた
というバランスです。
そう考えると、「絶対額としては少し物足りないが、制度と契約構造を踏まえると特別に安売りされたわけではない」、という評価が妥当なところかもしれません。
今井はアストロズで活躍できるのか?
最後に、今井がアストロズでどれくらいやれそうか、簡単に整理しておきます。
プラス材料
- 近年4シーズン連続で防御率3点台前半〜2点台:
・単年のフロックではなく、フォーム・球質の安定が見られる - 2025年の圧倒的な内容:
・163回2/3、ERA1.92、178K、被本塁打6本
・MLBのスカウトからも「山本由伸級」と比較されるほどのインパクト - アストロズの投手育成力:
・データ・バイオメカニクスを駆使したチューニングに定評があり、
ピークにある今井をさらに伸ばす余地もある
不安材料
- ボール・マウンド・日程の違い:
・メジャー球への順応、5日ローテの負荷は未知数 - 長距離移動と暑さ:
・テキサスやア・リーグ西地区の移動スケジュール、気候への適応 - 打高のMLB環境:
・NPBほどゴロ・フライがそのままアウトにならない中で、
被本塁打の少なさをどこまで維持できるか
とはいえ、直近4年連続で「エース級の数字」を出し続けている27歳の右腕であることを考えれば、
「アストロズという投手を見る目の厳しい球団が、ここまでの条件を提示した」という事実自体が、
今井のポテンシャルを物語っているとも言えます。
アストロズの黄金期を支えたバーランダーや、近年の菊池雄星がそうだったように、
“プレーオフ前提のチームでローテーションを回す”という経験は、投手をさらに一段上に押し上げることが少なくありません。
今井がそこでどこまで飛躍できるのか──2026年シーズンの注目ポイントのひとつになりそうです。
まとめ
- 今井達也は2025年に10勝5敗、防御率1.92、163回2/3で178奪三振とNPBトップクラスの成績を残し、通算でも58勝45敗、防御率3.15の実績を持つ。
- アストロズとは3年保証5400万ドル(最大6300万ドル)、年平均1800万ドルの契約で合意。AAVは日本人投手として山本・田中に次ぐ水準とされる。
- 西武へのポスティング譲渡金は約967.5万ドル+出来高の15%で、絶対額こそ小さいが、契約総額に対する割合はむしろ高め。
- アストロズは2017年以降、ワールドシリーズ2度制覇・複数のリーグ優勝を誇る“黄金期”の球団で、今井はその再建ローテの柱候補として期待されている。
- 同球団でプレーした日本人は、これまで松井稼頭央、青木宣親、菊池雄星の3人のみで、今井は“初の本格派エース格のポスティング投手”として新たな歴史を刻む存在になる。
「譲渡金が思ったより少ない」という議論はあるものの、
それは主に今井側が“短期+高AAV”を選んだことの結果であり、
制度から見れば極端に割安なわけではありません。
むしろ、アストロズが比較的コンパクトな総投資でエース級のポテンシャルを確保したという意味で、
「NPBエースとMLBビッグクラブ双方の思惑がうまく噛み合った契約」と言えるかもしれません。
参考文献・出典
- NPB公式「Imai,Tatsuya(Saitama Seibu Lions)個人成績」
- パ・リーグ.com「Tatsuya Imai 2025シーズン成績・プロフィール」
- MLB.com「Tatsuya Imai agrees to three-year deal with Astros」
- Sportsnet / Associated Press「AP Source: RHP Tatsuya Imai, Astros in agreement on contract」
- Houston Chronicle「Houston Astros land Japanese star pitcher Tatsuya Imai on three-year, $63 million deal」
- ESPN「Tatsuya Imai to become next Japanese pitcher to move to MLB」
- MLB.com「Yoshinobu Yamamoto, Dodgers agree to free-agent deal」
- MLB.com「Masahiro Tanaka signs seven-year, $155 million contract with Yankees」
- JapaneseBallPlayers.com「Japanese MLB players who played for Houston Astros」
- Baseball-Reference「Houston Astros Team History & Encyclopedia」「Tatsuya Imai Japanese Leagues Statistics」ほか関連ページ
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