「年俸調停」って、ニュースでたまに見るけど実態がよく分からない。
揉めたらどうなる? 球団と選手は何を主張する? そもそも日本とアメリカで同じ制度なの?
結論から言うと、年俸調停は“年俸交渉が合意できないとき、第三者が年俸額を決める仕組み”。
ただしNPB(日本)とMLB(米国)では制度設計がかなり違う。
この記事では、まず制度の骨格を整理し、次に「実例」で腹落ちする形でまとめる。
年俸調停とは何か:ひとことで言うと「年俸額の第三者裁定」
年俸調停は、選手と球団が契約更改(翌年の年俸)で折り合わないときに、
第三者(委員会・仲裁パネル)が双方の主張を聞いて、年俸額を決める手続き。
ここで大事なのは、年俸調停はFA(フリーエージェント)とは別物だという点。
FAは「所属先を自由に選べる権利」だが、年俸調停は基本的に“所属はそのまま”で年俸だけ決める仕組みになっている(※MLBは特にこの色が濃い)。
【比較】NPBとMLBで、年俸調停はここが違う
| 項目 | NPB(参稼報酬調停) | MLB(Salary Arbitration) |
|---|---|---|
| 誰が対象? | 契約更改で合意できない「契約保留選手」など | 主にサービスタイム3年以上6年未満(+Super Two) |
| 決め方 | 委員会が年俸額を決定(“間の金額”もあり得る) | パネルが「球団案 or 選手案」のどちらかを選ぶ(中間を選べない) |
| いつまでに? | 申請受理から30日以内に終結が原則 | 1月に金額提出→2月にヒアリング(多くは直前に和解) |
| 現場の使われ方 | レアケース(制度はあるが利用は多くない) | 毎年“恒例行事”級(ただし多くは調停前に合意) |
MLBの年俸調停:仕組みを「流れ」で理解する
① 誰が調停に行ける?:サービスタイムが鍵
MLBは、選手がFAになる前に球団が保有する権利(球団支配)とセットで、年俸調停が制度化されている。
一般的に、サービスタイム3年以上6年未満が対象。さらに例外としてSuper Two(2年以上3年未満の上位層)も対象になり、調停年数が増える場合がある。
② いつ何が起きる?:1月に金額提出、2月にヒアリング
MLBは「期限がある」のが特徴。
合意できない場合、期限までに球団と選手がそれぞれ来季年俸の数字を提出し、
その後ヒアリング(仲裁)日程が組まれる。とはいえ、調停は“行くこと”自体が目的ではなく、直前合意で回避されるケースが多い。
③ いちばん重要:MLBは“二択”の最終提示方式(Final Offer)
MLB調停のクセの強さはここ。
仲裁パネルは「球団の提示額」か「選手の提示額」のどちらかを採用する(中間は採用できない)。
そのため、両者とも“あまりに極端な要求”をすると負けやすく、現実的な金額に寄せたうえで勝負になる。
2026年MLBの“現在進行形”ケース:年俸調停はこうニュースになる
ケースA:タイリク・スキューバル(タイガース)──「史上最高額」を狙う超大型案件
2026年は、デトロイトのエース左腕タリク・スキューバルが「市場を揺らす」レベルの提出額で話題になった。
報道では、選手側が大幅増の金額を求め、球団側提示とのギャップが巨大になっている。
このクラスの案件になると、年俸調停は“球団の来季編成”だけでなく、“市場相場そのもの”に影響し得る。
ケースB:期限時点で未合意の選手が複数──「18人が金額提出」
2026年は、期限までに合意できず、金額提出に進んだ選手が一定数出た。
ここから2月のヒアリングまでに合意で回避するのが“いつもの流れ”だが、
未合意が残るほど、球団と選手の評価(=年俸査定のロジック)がズレていることを示す。
ケースC:アストロズは野手2人が調停へ──「主力でも普通に揉める」
強豪でも調停は起こる。
アストロズでは主力野手が金額で折り合わず、調停へ進む見通しが報じられた。
“揉めている=放出”とは限らないが、交渉がこじれるとトレード憶測が出るのもMLBあるあるだ。
NPBの年俸調停:正式には「参稼報酬調停」
日本の年俸調停は、正式名称を参稼報酬調停という。
野球協約上、調停が受理されると、統一契約書の“年俸欄だけ空白”のまま提出し、委員会が金額を決めて記入する、という建て付けになっている。
また、協約上は調停の申請を受理してから30日以内に終結することが定められている。
なぜNPBでは少ないのか?:制度設計と“使いにくさ”
NPBでは利用例が多くない。理由は一つではないが、選手会は「公平性」に課題があるとして、
年俸調停委員の選任方法などの改善要望を出してきた経緯がある。
結果として、選手側にとって“最後の手段”として残りやすい。
【過去のNPB実例】涌井秀章(西武)の参稼報酬調停:主張→判断→決着が全部公開された珍しい一次資料
NPBの年俸調停を「一次情報で理解したい」なら、最も分かりやすいのが涌井秀章のケース。
NPBが要旨を公開しており、交渉の経緯・双方の主張・委員会の考え方・結論がまとまっている。
交渉の経緯(ざっくり)
- 交渉回数は複数回
- 球団は現状維持の提示
- 選手は当初高い希望から段階的に下げても合意に至らず
委員会が示した“年俸決定ロジック”が超重要
委員会は、前年実績を軸にしつつ、
前々年までの実績、タイトル、集客力、期待度、選手間バランス、球団財政など、複数要素を総合考慮する枠組みを明文化している。
この文章は「NPBの査定思想」を読むうえで、かなり強い資料になる。
結論:委員会は年俸アップを決定
最終的に委員会は、年俸を概ね15%アップとする判断を示し、金額を決定した。
NPBで年俸調停が話題になるのは、このように“判断が外に出る”ことが少ないからでもある。
年俸調停のメリット・デメリット(ファン視点での見え方)
メリット
- ルールがある:交渉が決裂しても、年俸を決める出口が用意されている
- 相場が可視化される(特にMLB):同程度の選手比較が進み、年俸の市場化が進む
デメリット
- 関係がギスりやすい:球団は“下げ理由”、選手は“上げ理由”を言語化しないといけない
- 結局、交渉で決める方がラク:だからMLBも多くはヒアリング前に合意する
まとめ:年俸調停は「揉めたときの出口」だが、NPBとMLBでゲーム性が違う
- 年俸調停は、年俸交渉が合意できないときに第三者が年俸額を決める制度
- MLBは“二択(Final Offer)”で、期限→提出→ヒアリングという強いタイムラインがある
- NPBは参稼報酬調停として制度はあるが、実務上の利用は多くない
- 一次資料で理解するなら、涌井秀章のケースが最強クラス(経緯・主張・判断枠組み・結論が公開)
参考資料(一次・準一次情報中心)
- MLB.com:Salary Arbitration(制度の定義・対象・Super Two・手続き)
- MLB.com:2026年の金額提出期限(未合意人数、注目ケース等)
- Reuters:2026年スキューバルの調停案件(提出額、記録更新の可能性、日程)
- NPB公式:涌井秀章の参稼報酬調停(要旨:交渉経緯、委員会の判断枠組み、結論)
- 日本プロ野球選手会:紛争解決手続の公平化(年俸調停の課題認識)
- 日本プロフェッショナル野球協約(参稼報酬調停の条文)



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